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出来損ないの人器使い  作者: salt
第2章
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54話「エヴィエスとナイ4」

 同調。

 それはお互いの意識、感情を共有してニ心一体を体現する人器使いの境地。

 その力はただ闇雲に人器を行使するのと比べると比較にならない程の力を発揮する。


 救済の光によって人々が人器化という力を得て約20年。今なお同調が起きるきっかけは解明されていない。

 たが、同調を可能とした者には1つの共通点がある。


 それは、強い絆で結ばれているということだ。


「うわぁぁぁぁぁ!!!」


 エヴィエスはナイを人器化させた瞬間、数え切れないほどの感情に襲われていた。


 恐怖、怒り、嫉妬、悲しみ……


 このまま押し寄せる負の感情の奔流に流されてしまえば自我が失われてしまうだろう。

 そう直感したエヴィエスは流されないように必死に自己を保っていた。


 すると、何処かから声が聞こえる。


「エヴィ様……大丈夫。身を任せて」


 聞き間違える事はない。

 それは先ほど人器化したナイの声だった。


「ナイ……」


「うん……大丈夫だから」


「分かった」


 全てを包み込むかのような穏やか声色のナイを信じたエヴィエスはその押し寄せる感情の激流に身を委ねた。


「ナイ……これは?」


「これは私の感情……」


「これが……お前の感情!?」


 エヴィエスが驚くのも無理はない。

 ナイがこれだけ負の感情を抱えていた事が信じられなかったのだ。


「これが嘘偽りない私の感情……私馬鹿だけど嫌な事は嫌って感じるの……幻滅したでしょ?」


「……いいや。むしろ安心したよ」


「え?」


「だって、これまで本当の自分を出せていなかってことだろ?お前の本当の感情を知れて嬉しいよ」


「エヴィ様……」


「いいかナイ!!二度と言わないからよく聞け!!俺はお前の全てを愛してるって言ったんだ!!全てを俺が受け止めてやる!!だから……だから……俺に全て預けろ!!!」


 エヴィエスが叫んだ途端、負の感情の激流は一瞬にして消え、暖か日差しに包まれているような感情が流れ込む。


 嬉しかった感情、楽しかった感情……そしてエヴィエスと共に過ごした感情。


 それは、先ほどの負の感情とは比べ物にならない程の輝きを放っていた。


「なぁ、負の感情なんてちっぽけだろ?ナイ……俺と一緒に進もう」


「うん、エヴィ様!!」


 暖かな感情がナイを形作る。

 そのナイをエヴィエスは抱き寄せ口付けを交わした。


 ◆◆◆◆◆◆


 エヴィエスが感情の奔流に飲まれていた時間は数秒だっただろう。


 エヴィエスが目を開けた時、眼前に迫るオークが今まさに野太刀を振り下ろそうとしていた。


 しかし、エヴィエスは一切動じる事なく、野太刀が振り下ろされる前にオークの両眼と口を光り輝く突剣で3度突いた。


 一瞬のうちにオークは絶命し、振り下ろされる野太刀と共に崩れ落ちた。


 恐らく周囲を取り囲むオークには何が起きたのか見えなかっただろう。

 先ほどまで勝利を確信していたオーク達であったが目の前の人器使いに仲間が殺され緊張が奔る。


 しかし、その緊張がオーク達の持った最後の感情だった。


 エヴィエスは周囲を囲むオーク達の急所を一瞬で貫いたのだ。


 断末魔を上げる間もなくオーク達は崩れ落ちる。


 エヴィエスは倒れたオーク達を一瞥すると人器化を解いた。


「さぁ、ナイ。街に帰ろう」


「うん!!」


 2人は手を繋いでケントルムまでの帰路に着いた。


「なぁ、ナイ……」


「何?エヴィ様?」


「どうしてこんな所に居たんだ?」


 エヴィエスは素直に疑問を口にする。


「んー、ウタちゃんがここで待ってろって言ったの」


「え!?」


 もしかすると、全てウタの掌で転がされていたのかもしれない。

 そう思うと釈然としないが、隣で腕を組むナイの幸せそうな表情を見るとその気持ちも薄れてしまった。


 これが、人類の歴史に名を残す人器使いエヴィエスが本当の意味で産まれた瞬間だった。


 ◆◆◆◆◆◆


 エヴィエスとナイが同調を体得したその時、その様子を遠くから見つめる人影があった。


「あの……そろそろ帰ってもよろしいでしょうか?」


 無数のオークの死骸が山になった頂上に座る彼女に冴えない男が懇願する。

 街で冴えない男を捕まえたウタは、その男の人器を用いてオークの群を殲滅し、数匹をエヴィエスが居る丘に放っていたのだ。


「ああ、いいわよ。ありがとうね。あっ……そうそうこれお礼ね」


 ウタは懐から金が入って袋を冴えない男にポイっと投げる。


「え!?こんなに!?いいんですか!?」


 男か驚くのも無理はない。

 ウタが手渡したのはケントルムで家が一つ買えるほどの金額だ。


「え?ええ、いいわよ。私金に興味ないしね」


「あっあっありがとうございます!」


 袋を大事そうに抱えた男はウタに一礼をすると一目散に街へ走っていった。


「全く……あんたらは焦ったいのよ」


 ウタの視線の先は手を取り合って笑う2人の笑顔があった。

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