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出来損ないの人器使い  作者: salt
第1章
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16話「繋がり」

 狼型の魔物フェンリルが牙を剥き出しにしてシロに襲いかかる。

 シロはその牙を軽い身のこなしで躱し、すれ違いざまに2発、魔物の頭部に向けて水弾を放った。

 水弾が頭部を貫き、フェンリルはぐらりと地面に倒れる。


 そのまま前に突進しながら目の前に待ち構える三匹のフェンリルに水弾を放つ。


「ギッ!」


「ガァ!」


「ギャン!」


 それぞれが悲鳴を上げるが、それに目を向けることはない。

 シロが視線に捉えているもの……それは、三ツ首の魔物、ケルベロスである。

 約2ヶ月前、シロとアリスが苦渋を飲んだ魔物と同種だ。

 ケルベロスは前と同じく3つの顔の前で光の球を作成し、シロに向かって放つ。


(シロ!いけるわ!!)


(いけます!!)


 彼女達の声が響く。


 迫る光の球に臆することなく、シロは脚に力を込める。

 大地はその力に呼応し、シロに前へと進む推進力を与える。

 ドンっという音と共にシロは加速する。


 最高速に加速したシロは体勢を低くし、眼前に迫る光の球の下を潜り抜けた。


 そして、ケルベロスに向かい引き金を引く。


 ドンドンドンドンドンドンッ!!っという銃声がこだましたのち、ケルベロスの頭は全て撃ち抜かれていた。


「……ふう」


 もつ周囲に魔物の気配はない。

 シロは一瞬のうちに五匹の魔物を倒していた。


「いやー見事ね!」


 ルウムに向かって感嘆の声を上げる。

 彼女はいつものように曲刀を肩に乗せ、トントンとリズムを取っている。


 二重同調が可能になったあの夜から約1ヶ月が経過していた。

 シロは定期的にルウム、ケンプと共に魔物と戦う日々を過ごしていた。


「それにしても……最近魔物増えていませんか?」


 ルウムとケンプの仕事は定期的に森や北の平原赴き、出会った魔物を排除するのだ。

 これは、ルウムとケンプ以外の人器使いも主に行っている仕事なのだが、最近魔物遭遇する頻度か上がってきているように感じる。


「まあ、それを考えても仕方ないわよ。さあもう今日は帰りましょうか」


 シロ達は人器を解除し、街への帰路につくのだった。


 ウェステの街が見えててきたところでシロは2人を呼び止める。


「ねえ、アリス、リリスちょっといいかな?」


「もちろん大丈夫ですよ」


「いいけど……どうしたの?」


 リリスは笑顔で答え、アリスは不思議そうな表情をする。


「じゃあ私は戻るわね。明日もよろしく!」


「またな、シロ」


 ルウムとケンプは挨拶も程々に街へ戻っていった。

 2人の後ろ姿が少しずつ小さくなり、見えなくなったところでシロは重い口を開く。


「ねぇ、アリス……リリス……僕この街を出ようと思うんだ」


 それはシロが最近、ずっと考えていたことだった。このままでいいのかと。


「「え!?」」


 2人は双子らしく見事に合った反応をする。


「それで……2人にはこの街に残って欲しいんだ」


 2人の金色の髪が風が吹き抜ける風に包まれるように揺れていた。


 ◆◆◆◆◆◆


 翌日の朝。


 空は雲ひとつない青空が広がっている。

 ギルドの前でルウムとケンプが待っていると、アリスとリリスの2人がやってきた。


「あら?シロはどうしたの?寝坊?」


「あんなやつ知らないわ」


 アリスは腕を組みながら顔をそむけ、リリスは無言で俯く。


「おい……何があったのか?」


 ケンプが心配そうな声を上げる。


「なんにもないわよ!」


「でも……少年がいないと戦えないでしょ?」


「回復ならできるから連れて行って!」


 アリスは張り裂けるような声を上げ、ルウムとケンプを睨みつける。

 その青い瞳の目元は赤く腫れていた。


(これはなんかあったな……)


 2人は同時に察した。

 伊達に人生経験を積んでいるわけではないのだ。


「ねえ、アリス。リリス。何があったかは聞かないわ。でも、帰ったらもう一度少年と話しなさい。それが約束できるなら連れて行ってあげる」


「……分かった」


 アリスは渋々納得する。


「よし!じゃあ行きましょうか!」


 そう言いながらルウムは街の外への向かうために2人から背を向ける。


「おい……いいのか?」


 ケンプは後ろを歩く双子に気がつかれないように近付き、ルウムに耳打ちをした。


「……いいのよ。私達だって色々あったじゃない。少し時間を開けて、もう一度話せば良いのよ」


 ルウムはいつも通りの笑顔をケンプに返した。


 ◆◆◆◆◆◆


 アリス達が出かけてから数時間後、太陽が最も高くなった頃、シロは街の外周部の農村地帯を歩いていた。


 もうこの街に戻ってくることはないかもしれない。

 だから、様々な出会いがあったこの街を目に焼き付けておきたかったのだ。


(結局、アリスとリリスを傷つけてしまったな……)


 昨日、残って欲しいと伝えた時の2人の動揺した顔が過ぎる。

 あの顔を思い出すだけで心が締めつけられる。


 周囲には畑が広がり、色とりどりの実を結んでいる。まるで茶色い絵具の上に色取り取りの石をばら撒いたかのように。

 シロの髪を揺らす風は大地の匂いを運んでくる。


 この匂いを嗅ぐと、3人で散々畑を耕した思い出が蘇る。


 この場所だけではない。


 ウェステの街はどごもアリスとリリスで過ごした思い出で溢れている。


 それはシロにとってかけがえのない宝物になっていた。


 だからこそ、だからこそ2人にはこの街に残って欲しいと決めたのだ。

 だから、後悔してはならない。

 これは自分自身で決めたことなのだから。


「あれー?こんなところで何してるのぉ?」


 その呼び掛けに振り返ると、馬に跨ったルフがこちらに向かって手を振っている。


「ああ、ルフ。久しぶりだね」


「うん、久しぶり」


 いつもと同じく古ぼけたフードを目深に被ったルフは馬から降り、シロの顔を覗き込む。


「浮かない顔をしてるねぇ」


 フードの影の赤い瞳と目が合う。シロと年齢は変わらないのだが、全てを悟っているかのような瞳だ。


「ルフ……僕はこの街を出ようと思っているんだ」


「そっかぁ……寂しくなるねぇ」


 ルフは目を細め、汚れることなど何も気にならないと言わんばかりに土の上に座る。


「でも……理由は別にあるんじゃないの?まあ、座りなよ」


 ルフは自分の隣をポンポンと叩き、それを見たシロは促されるままルフの隣に座った。


「……アリスとリリスとパートナーを解消することにしたんだ」


「そっかぁ。それは何でなのかなぁ?」


「これは僕の問題だから……」


 シロは言葉に詰まる。

 何者かになるという旅の理由は、シロ自身の問題だ。

 これから東に行くに連れて魔物の力は強大になる。

 いつか魔物に殺されてしまう時が来るかもしれない。そんな危険な旅に2人を突き合わせるにはいかない。


「それは、君が旅する理由に関わるのかな?」


「うん……このままここにいても僕は何者にもなれないから……」


「そっかぁ。君は何者かになりたいんだねぇ……でもそれってそんなに難しいことかな?」


 彼女は全て見透かしているかのような表情でシロを見つめる。


「んー、君は私の友達でしょ?」


「……うん」


「じゃあ、シロは私の友達だね」


 ルフはフフッと笑う。


「それに、アリスとリリスのパートナー。ルウムとケンプの弟子……」


 遠くを見つめる彼女の横顔はとても綺麗だ。


「みんな生まれた時は何者でもないんだよ……だけど、みんな色々な繋がりを持っていて、その繋がりがその人自身を作り上げていくんじゃないかなぁ」


 ルフは静かに立ち上がる。


「だから、君は君自身の好きなようにすればいいんだょ」


 そう言った彼女の姿は太陽の光と重なってとても眩しく、シロは思わず掌で影を作る。


「私ねぇ……ここよりもずっとずっと遠いところで生まれたの。そこはこことは違って食べ物なんて育たないし、毎日毎日お腹が空いて暮らしていたんだぁ」


「……」


「だけど、みんながいたから幸せだったの……シロはアリスとリリスと一緒にいたい?」


「……うん、一緒に居たい」


 その言葉はシロから漏れ出てた本当の気持ちだった。


「じゃあ、迷うことなんてないよ。その想いを伝えてみたらいいさ……想いを伝えないでお別れになるなんて悲しいからねぇ」


 シロは大の字で寝転び、空を見つめる。

 不思議と自分の心のもやが晴れていくのを感じる。

 確かに自分は難しく考えすぎだったのかもしれない。


「自分の事の好きなことをすればいい……か」


 その言葉を呟いたとき、自分のすべきことは決まっていた。


「おっ、なんだか吹っ切れた顔してるねぇ。その方が素敵だょ」


 ルフは自分が乗っていた茶色い馬の頭を撫でながら手綱を引く。


「私占いが得意なんだけど、君の大切な人のところに迷わず行けるようにおまじないをしておいたから、この馬に乗っていっていいよ」


 ルフは笑顔で手綱をシロに渡す。


「ありがとう」


 シロは馬に跨り、ルフを見下ろす。


「いってらっしゃい」


「うん、行ってきます」


 シロは大切な人の元に急ぐのだった。

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