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出来損ないの人器使い  作者: salt
第1章
16/85

15話「両手に花」

「はあっ!」


 懐に飛び込んできたルウムが曲刀を振るう。


「!?」


 シロはルウムの大振りな横薙ぎを身体を後ろに逸らして躱し、バク転のような動きで距離を取る。


 そして、間髪入れずに銃を構え水弾を放つ。

 シロから放たれた水弾は真っ直ぐにルウムを襲うが、彼女はそれをジャンプして躱しシロ目掛けて飛んでくる。


(チャンスだ!)


 流石の彼女も空中では身動きが取れない。

 シロは素早く空中の彼女に銃口を向け、再び数発打った。


 水弾は確実に彼女を撃ち抜くだろう。

 シロは初めて勝利を確信した。


 その時ーー


「演舞剣!!」


 空中のルウムの身体の周りに3つの曲刀が現れ、キィンと水弾を弾く。


「!?」


 そして、今度はその曲刀がシロに向かって襲いかかる。


「く!?」


 シロは身を後退させながら素早く水弾を一発放ち、曲刀を1つ撃ち落とす。

 そして、両手に構えた銃で、曲刀を受け止めた。


 ギィン!と鈍い音が響く。

 曲刀はシロが受け止めるやいなや消えてしまった。


 ふぅと思ったのも束の間、目の前にはルウムが居ない。


「……後ろよ」


 その声を聞いた瞬間、振り返る間もなくシロの側頭部に衝撃が走っていた。


「がぁ!!」


 背後から側頭部に回し蹴りを受けたシロは地面に叩きつけられる。


「いやー、強かったよ」


 ルウムは満足げな笑みを仰向けに倒れたシロに向ける。


「痛てて……ありがとうございます」


「それにしてもすごいわね!2人同時に同調とか。所謂、二重同調ってところかしら」


「アリスとリリスだったから出来たんだと思います」


 二重同調は2人の魂の器を1つに合わせることによって成功した奇跡だ。

 これが例えば、カーミラとアリスだったら成功はしていないだろう。


 シロはアリスとリリスを解除する。

 彼女達はいつも通り、リリスの如雨露でシロを癒す準備に取り掛かる。


「でも本当にすごいわ。昨日の今日でここまで使いこなせるなんてね。多分、少年はすぐに私よりも強くなるわ」


「え……そんなことないですよ」


 ルウムとケンプ。

 2人の人器使いはこれまで数多くの戦いを潜り抜けてきた歴戦の猛者だ。

 こうして手合わせをしていても2人の強さの底が見えない。

 そんな人より強くなる自分が想像できない。


「そんなことはない」


「ケンプさん……」


 ルウムの隣に立つケンプが語りかける。


「同調が使える者同士の戦いの場合、何が勝敗を分けると思う?」


「えっと……魂の量ですか?」


「いや違う。人器だ」


「人器?」


 傷を癒すためシロに水をかけ続けるアリスが不思議そうな顔で2人に視線を向ける。


「ええ、そうなの。まず、同調者と非同調者が戦った場合、余程のことがない限り同調者が勝つわ。それだけ同調には力があるの。でも、同調者同士の場合は人器の差が力を分けるわ」


 ケンプが口を開けかけた途端、ルウムが口を挟む。

 ケンプは一緒怪訝な表情をするが、ルウムは全く意に介していない。


「じゃあ、強い人器を持っている人同士が同調するのが一番強いってことですか?」


「そうだ」


「まあでも、そもそも同調自体がどうすれば分からないのに狙って強力な人器所持者と同調するのは無理だと思うけどね。その点、アリスとリリスはかなり良い人器だと私は思うわ」


「確かにそうですね……アリスだけと同調していた時に比べて、身体が軽いです」


 人器が強力な分、注ぎ込む魂の量を減らしても十分に戦えるため、同調できる時間も延びたのをシロは実感はしていた。


「そう、身体能力の強化も同調の特徴だからね。器の力が強ければ力も上がるのよ」


「まあ、アタシとリリスが同調しているから当然じゃない!」


 アリスは勝ち誇ったような声を上げる。


「だから、アリスとリリスを大切にしなさい」


「はい!」


「じゃあ、今日の訓練は終わりね。あっ、そうそう、明日私たちの仕事に付き合ってもらっていいかしら?」


「え?でも大丈夫なんですか?」


 シロは驚いた声を出す。


「まあ、カーミラには私から話をしておくから大丈夫よ」


 ルウムはシロに向かって軽くウインクをした。


 ◆◆◆◆◆◆


 その後、いつも通りに農作業を終えた3人は家路に着いていた。


「今日も疲れたわね……」


 アリスはぐったりとうなだれている。

 夕焼けが3人の影を照らし、土で固められた道に長い影を落とす。


「シロさん、今日これから一緒にご飯食べませんか?私が作りますから!」


 リリスがシロの前に回り込み、夕焼けに照らされた長い髪が揺れ、キラキラと光り輝いている。


「ほんとに!?ありがとう!」


「はぁ?こんな疲れたのに何で作るのよ……どっか食べに行けばいいじゃない」


 アリスが呆れた声を上げる。


「じゃあ姉さんさんは作らなくていいです。シロさんには私の手料理を食べてもらいますから」


「ぐっ……私も作るわよ!」


「2人ともありがとう!ところでリリス。髪型変えたんだね」


 彼女は今まで目が隠れるほど長かった前髪をピンで止めている。そのため以前より大きな青い瞳がよく見える。


「はい……似合っていますか?」


「うん、とても似合っていると思うよ」


「嬉しい!」


 今までの彼女からは想像も出来ないほどの笑顔が弾ける。

 夕陽に照らされている彼女の笑顔はドキッとするほど美しかった。


 すると彼女はシロの横に回り込み腕を組む。


「早く行きましょう!シロさん」


「ちょ!アンタ何してんのよ!」


 そう言うとアリスはリリスの反対側に回り込み腕を組んだ。


「えっと…これは…?」


 突然2人に腕を組まれたシロは困惑する。


「パートナーなんだから普通ですよこのくらい」


「そう!このくらい当然よ!」


 リリスはシロの肩に頭を預けて、アリスは真っ赤になって俯いている。


「……そうなのかな?」


 まるで同調と同じように重なり合った影が道に映し出されていた。


 その夜ーー


 シロは3人で夕食を食べたのち、自分の部屋に戻ってきていた。


 ふーっと息をついて、ベットに勢いよく寝転ぶ。

 部屋の天井には、ただ変哲もない木の板の模様が見える。


 アリスとリリスが作ってくれた料理はシロの想像を超える美味しさだった。

 それに、1人で食べるよりもみんなで食べた方がずっと美味しい。

 ずっと一人だったシロにとって、皆で囲む食卓はかけがえのないものだった。


 リリスは昨日の夜から何かが吹っ切れるかのように変わった。

 あの笑顔を守れたことがとても嬉しい。

 そして、シロも自分自身が彼女達との日々で変わっていくのを感じていた。


 シロはゆっくりと目を閉じる。


 ウェステの街に来て約1ヶ月、目まぐるしい日々が続いた。

 毎日が新鮮で、充実しているのを感じる。

 このままの日々がずっと続いてほしいと思えるほどに。


 だが、自分が何者なのかその答えは見つからない。

 いつか、必ずそれを見つけるんだーー


 考えるのも程々にシロは深い眠りに落ちていたのだった。


 ◆◆◆◆◆◆


 シロが早々と眠りに落ちた頃、ルウムはカウンターだけが並ぶ静かな店で酒を飲んでいた。

 店内は薄暗く、ささやかな光が彼女の横顔を照らす。


「それで……どう?」


「んーどっちのこと?」


「茶化さないで、魔物のことよ」


 隣に座る栗色の髪の女性、カーミラは呆れた表情で答えた。


「やっぱり……増えているね」


「……そう」


 カーミラは短いため息をつく。


「でも、東もこの街も同じじゃない。私達は魔物と戦わないと生きていけない。それだけでしょ?」


「そうなんだけどね……平和なこの街に慣れちゃったのかな……」


 彼女はグラスを傾ける。酔いが回ってきているせいか頬が少し赤らんでいる。


「まあ私が居る間は大丈夫。まだ魔物に後れはとらないよ!」


 そう彼女は陽気に笑いながらカーミラの背中をバンバンと叩く。


「痛いわよ!もう!まあ……貴方が負けるなんて想像はできないけどね」


「ところで、アンタのお気に入りの子。凄いわよ」


「シロ君?別にお気に入りって訳じゃ……」


「いやいや、いいっていいって」


 ルウムは左手を振りながら言葉を被せる。


「本当はアンタがパートナーになりたかったんじゃないの?」


「それでもいいと思ったけど、私にはあの人がいるから……」


 カーミラは手に持ったグラスをグイッと飲み干す。


「そう……アンタも大変ね……」


 ルウムは頬杖をしながら短いため息をつく。


「少年は本当に強くなると思うわ。でも、本当の戦いを知らない。あの子が本当の戦いを知った時、どうなるか……それが心配だよ」


「そうね……だから連れて行くんでしょ?」


「うん、ここにいる間にできる限りのことは教えてあげるようにするよ。だって、私の唯一の弟子だからね」


 そう言いながらルウムは笑っていた。

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