交通安全の黄色い旗
旗 は 揺れて た
空 は 真っ黒 だった
雪 は 縦 に 降って いた
字 は 裏返し に なって いた
車 は 無音 で 身体 を 避け た
旗 は 道 の 向こう で 垂れて いた
声 は 惜しい と 囁いて は いな かった
雪 は 縦に 降る 黒い 夜 揺れる 旗 を また
投稿規程に文字数が足りない・・・。
その日、私は深夜と言っていい時間に家をでた。
なんの事はない、理由は趣味で書いている文章が珍しく止まらなかったから。
夕食も取らず、なかなか面白いものが書けたと自画自賛、いや、自書自賛しながら近くのコンビニへと歩く。
白い結晶が音もなく落ちていた。
ありがたい事に雪は真っ直ぐ上から下に降ってくれていたので、かぶったフードの庇だけで顔が濡れるのを防げた。
渡ろうとした信号のない交差点の先に、交通安全の黄色い旗が、ゆらりゆらりとゆっくり揺れているのに気がついた。
蛍光イエローの薄地の布は裏返ってしまって、全安通交になってしまっている。
真っ黒な空の下で黄色い旗は、手招きするように、ゆっくりゆらりと楽しげに踊っていた。
ゆらり、ゆらり、ゆっくり、ゆらり。
闇夜の黒に、黄色は遊ぶ。
ゆっくり、ゆっくり、ゆらり、ゆっくり。
黄色は遊ぶ、白雪弾く。
交差点を渡ろうと一歩踏み出した私を、結構なスピードの車が避けてくれた。
は? 茫然とする私の耳にパパーっと遅すぎるクラクションが、思わず追った目にテールランプの赤色が届く。
深夜の交差点。
静まり返った薄闇の中で、車のエンジン音にもライトの明かりにも気がつかない事などありえない。
今度は気をつけて左右を見、正面を見れば旗は揺れてなどいない。
それはそうだ。雪は縦に降っている。
風が雪を吹いていないのならば、旗を揺らすはずもない。
不意に冬の寒さ以外が私を震わせた。
何も。何も私は聞いていない。
若い女性が「惜しい」などと囁く声は絶対に聞いていない。
だから、周囲に誰かいないか、と確認する必要も、裏返しになった交通安全の旗が、風も無いのにまた揺れ始めないか確認する必要も、無い。
目を伏せて速足でコンビニまで行き、買い物をすませて家へと戻る。
三階の部屋からは例の交差点が見えるが。
真っ黒な空の下、縦に降る雪の中で。
ゆらりゆらりと、また楽しげに揺れる旗を。
私は見続けてなどいない。
あやしい、あやしい、あやしいと考えていたら、交通安全の旗が主役に立候補してくれました。
今回は特に仕込んで無いので変則読みは不要です。
「は」が縦に並ぶのと階段状の怪談が面白いかな、と。