九十九話 告白①
『ふっ……これはしてやられましたな』
「っ、ゴウセツ」
そんな中、ゴウセツがゆっくりと起き上がった。
シャーロットを背に庇って、アレンは真っ向から敵に対峙する。
「まだやる気か。無駄な抵抗はやめた方がいいぞ」
『まさか。耄碌した老体ではございますが……一度打ち合えば、力の差くらいは理解できますからな』
ゴウセツはゆるゆるとかぶりを振って……ぺこりと頭を下げてみせる。
『完敗でございます。お見それいたしました』
「そ、そうか?」
アレンは目を丸くしてしまう。地獄カピバラは執念深い。一度こうと決めたことは、何があってもなかなか曲げない。だがしかし、ゴウセツの言葉に嘘はなさそうだ。
「ふむ……地獄カピバラのわりに物分かりがいいんだな」
『何を仰いますやら』
好々爺じみた笑い声をこぼし、ゴウセツはなんということもなく告げる。
『愛し合う若者たちの邪魔をするのは、いくらなんでも無粋というものでございましょう』
「…………うん?」
『先ほどのお言葉、この老いた胸にもいたく響きましたぞ。貴殿はその気持ちを封じたままいるのかと思っておりましたが……儂のあずかり知らぬところで伝えておられたのですなあ』
「いったいなんの話……………………あっ!?」
そこでようやく気付いた。
今しがた、自分が何を口走ったのかを。
(惚れた、女って……言ったな俺!?)
カーッと体中が熱くなる。
そんなアレンを見て、ルゥはやれやれとため息をこぼしてみせた。
『おまえがママのことをすきなのは知っていたけどさ……まさか、あんなかたちで言うなんてな』
『……ひょっとして、今のが初めての告白というやつでございますか? え、まことに?』
「やめろ貴様ら! 畳み掛けるな!」
周囲の魔物たちも『うそー……』だの『カッコ悪いなあ』だの『いやでも、一周回ってありなんじゃない?』だのと、好き勝手な批評を投げかけてくる。
アレンはあたりを一喝して頭を抱えるしかない。
だがしかし、言ってしまった事実は変えられない。
気の利いた言葉とプレゼント、そして最高の景色。
そんなものを引っさげて告白しようと思っていたのに……全部台無しだ。
(……まあでも、こっちの方が俺らしいか)
ここまできたら開き直りが肝心だった。
くるりと体を反転させてシャーロットに向き直る。
「えっと、シャーロット……そういうわけだ」
「…………」
シャーロットは真っ赤になって固まったままだ。
先ほどのアレンの言葉をきちんと理解していることがありありと分かる。
だが、ここでアレンが日和って誤魔化せば……ちゃんと無かったことにしてくれるのだろう。
だから、アレンは逃げないと誓った。
まっすぐにシャーロットを見据えて――告げる。
「好きだ。愛している。俺と……付き合ってほしい」
何ら飾り気のない、シンプルな言葉。
それがアレンの思いの全てだった。
シャーロットは真っ赤になったまま、その告白をじっと聞いてくれていた。アレンはただ、返事を待つ。五秒。十秒……一分。とうとう五分が経過する。
やがてシャーロットはゆっくりと口を開く。
か細い声が、柔らかな唇からこぼれ落ちた。
「ご……」
「ご?」
「ごめんなさい……!」
シャーロットはアレンのそばをすり抜けて、ルゥの背中に飛びついた。
「お願いします! ルゥちゃん!」
『へ? えーっと、うん。わかった』
そのままルゥに乗って壁を駆け上り、縦穴から一瞬で姿を消してしまう。アレンはそれを追いかけることもできず、見送ることしかできなかった。
「………………え?」
『いやあの、うむ。どんまいでございますぞ、若者よ』
フラれたばかりのアレンの肩を、ゴウセツがぽんっと前足で叩いてみせた。





