九十七話 望まぬ復讐②
「アレンさん!」
「すまない。遅くなったな」
目を丸くするシャーロットに、アレンは軽く片手を上げてみせる。
見る限り怪我はなさそうだ。
ほっと胸を撫で下ろすが……その目尻に涙の雫が浮かんでいることに気付いて、カッと体の芯が熱くなった。
アレンが激情をぐっと堪える中。
シャーロット以上に目をみはり、ゴウセツが吼える。
『バカな……! あれだけの数のノーブルドラゴン、いったいどう切り抜けた!』
「どうって、そんなの決まっているだろう」
アレンは肩をすくめて、ぱちんと指を鳴らす。
次の瞬間、狼の遠吠えとともに、空から大きな物体がいくつも降り注いだ。轟音を上げて縦穴の底に叩きつけられるのは……ノーブルドラゴンの群れである。
アレンの隣にルゥが並び立ち、縦穴の奥底を睨め付ける。
「このとおり、倒した。それだけだ」
静まり返る一同に、アレンはニヤリと笑ってみせる。
そのついでに呪文を唱え、大きな光の玉を生み出した。縦穴の中にはまだまだ何匹ものノーブルドラゴンが存在するため、魔力の光は弱くちらつくものの……光源としては問題ない。
「たしかにノーブルドラゴンは魔法を無効化する。だったら……それを上回る魔力でねじ伏せてやればいいだけだ」
『はっ……面白い』
ゴウセツは枝を咥えて、ゆらりとアレンを睨み上げる。
その身から迸るのは純然たる殺気。それに充てられるようにして周囲の魔物たちも気色ばむ。
一触即発の空気が流れる中で、シャーロットは慌てたように叫ぶ。
「あ、アレンさん! ゴウセツさん、ニールズ王国に乗り込むつもりなんです……! 止めさせてください!」
「ふむ、予想通りだな」
「へ……」
シャーロットはぽかんと目を丸くする。
彼女をさらったのが、動物園の地獄カピバラ・ゴウセツであることはルゥから聞いていた。
ならば自ずと目的も判明する。
「地獄カピバラが固執するものにはふたつある。食糧と……義侠心だ。やつら、気に入った生き物にとことん肩入れする性質でな」
それだけならば義に熱い魔物だ。
だが、往々にしてやりすぎるきらいがある。主人の望む以上のことをしでかす厄介なトラブルメーカーなのだ。
「動物園で、おまえが気に入られていたのは知っていた。だが、やつらが人間を主人とする例は滅多にいないからと……対策を講じなかった俺のミスだ。すまなかったな」
「そんな……アレンさんが謝ることじゃないですよ!」
『その通り』
ゴウセツはアレンを睨め付けながら、低い声で唸る。
『貴様にはシャーロット様と言葉を交わす資格もない』
「ふん、げっ歯類風情が大きく吠えたものだな」
あからさまな敵意を前に、アレンは鼻を鳴らす。そうして……相手をまっすぐに見据えて問うた。
「シャーロットを苦しめた元凶を滅ぼせば……本当にこいつが救われると思っているのか?」
『当然であろう!!』
ゴウセツが吠え猛る。それと同時に魔物たちが一斉に動いた。空を飛べるものは宙を舞い、他のものは壁を駆け上がってまっすぐこちらを目指してくる。
「頼むぞ、ルゥ!」
『ちっ……しかたないな』
アレンがその背にまたがると同時、ルゥは全力で跳躍した。





