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八十六話 イケナイ告白のために③

 グローやメーガスたちは、腐っても冒険者だ。

 このギルドにも多くの手配書が貼られていて、中には当然シャーロットのものもあっただろう。彼らがそれを目にしていないはずはなく、いくら髪を染めているからといってもその正体に気付かないわけがないのだ。


 それなのに、これまで誰もシャーロットに関して言及しようとも、捕らえようともしなかった。

 むしろ日に日に街の手配書が減っていく始末。アレンがこっそり処分したものより、それは明らかに数が多かった。アレンはそのことにうっすらと気付いていたが……これまでそっとしておいた。


 そんな不可侵の領域にグローは踏み込んだのだ。

 彼はアレンを睨んだまま続ける。

 

「そんな女を口説くなんてよ……立場を利用して関係を迫るようなもんじゃねーのかよ」

「お、おい、グロー。そいつは言い過ぎだろ」

 

 メーガスが慌てたように口を挟む。

 

「この方はたしかにクソほど横暴だが……お嬢ちゃんに対してだけは真っ直ぐじゃねえか。そんな人じゃねえよ」

「分かってるっつーの。でも、言わずにはいられねえだろ」

 

 ちっ、とグローは舌打ちしてそっぽを向く。

 しばし場に沈黙が落ちるが……アレンはふっと笑う。

 

「たしかにおまえの言葉はもっともだ。傍目から見れば、俺はろくでもない卑劣漢だろう」

「……なら、女神様を諦めるのか?」

「まさか!」

 

 アレンはニヤリと笑って断言する。

 もちろんそれは危惧したことだ。シャーロットは立場があるからアレンの告白を断れない。アレンが望むとおりの恋人を演じようとするだろう。

 だからこそ……アレンは決意を固めていた。

 

「俺はあいつを、必ずや幸せにしてみせる。立場やしがらみといった、くだらぬものを忘れられるくらいに」

 

 それこそ人生を丸々捧げたとしてもかまわない。

 すべての障害を取り除き、世界一幸せにしてみせる。

 

「その上でもまだ俺を受け入れられないのなら……大人しく身を引こうじゃないか」


 アレンは嘘を見抜くことができる。

 シャーロットがどう自分を偽ろうとも、その本心は手に取るようにわかるだろう。そのときはすっぱり諦める。アレンの望みはシャーロットを苦しめることではなく、ただ幸せにすることだから。


「たとえ選ばれなくても、あいつが幸せなら俺は――」

「いや、もういい」

 

 アレンの言葉を遮って、グローが片手をかざしてみせる。

 そのまま彼は顔を両手で覆って、ゆっくりとかぶりを振ってみせた。

 

「わかったから……もう勘弁してください……」

「む。まだ語り足りないくらいなのだが」

「ダメだって、グロー」

 

 グローの肩をぽんっと叩き、メーガスはアレンに生暖かい目を向ける。

 

「この人、初恋で完全にハイになってやがるんだから……下手に刺激したら、ダメージ受けるのは俺らだぞ」

「……なぜ貴様、これが俺の初恋だとわかったんだ?」

「わからいでか」

 

 真顔で返すメーガスだった。

 一方で聴衆に徹していたはずのゴロツキたちもまた、なぜか頭を抱えていた。

 

「俺ら、さっきからいったい何を聞かされているんだ……?」

「正気に戻るんじゃねえ。ここはアルコールで脳を守るんだ」

「ううっ……こんなに味がわからない酒、俺初めてだよぉ……」

 

 そうして全員が全員、競い合うようにして酒を(あお)り始めた。なんだかヤケクソだ。

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