表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/225

八十二話 ラブコメの幕開け③

 感情の激流に翻弄(ほんろう)されながら、アレンはぼんやりとシャーロットを見つめる。


「ひゅーひゅー! ドキドキするって具体的にはどんな感じです?」

「あ、あの……どう言っていいのか分からないんですけど……」


 ドロテアに先を促され、シャーロットは律儀に言葉を探す。 


「これまで私、怖いドキドキしか知らなかったんですけど……あったかくて、うれしいドキドキ……ですかね」

「ひゃっほーう! めっちゃいいっすね、それ! いただきです! これなら新作も速攻校了間違いなしっすよ!」

「そ、そうですか? よくわかりませんが……お役に立てたのならよかったです」

 

 そう言って、シャーロットはふんわりと微笑んだ。

 その笑みが……アレンの心に突き刺さる。

 

 決して恵まれているとは言えない半生なのに、彼女は他人のために心から微笑むことができる。その強さに強く惹かれた。



 認めてしまったが最後、思いは止まることがなかった。


 笑顔が好きだ。

 小さな手が好きだ。

 声が好きだ。


 ともに過ごす時間が、何気なく交わす言葉が、ふとしたときの沈黙が……なにもかもが愛おしい。


 

 シャーロットはアレンと手を繋ぎ、ドキドキするという。

 アレンも全く同じだ。今にも心臓が破裂しそうなほどに高鳴っている。

 ならばシャーロットも……アレンとまったく同じ気持ちを抱いているのでは?


(これはもう……やるしかない!)


 自重や様子見といった言葉は、彼の辞書に存在しなかった。

 即断即決。やると決めたら徹底的にやる。

 それがアレン・クロフォードという男だった。


「シャーロット!」

「ひゃうっ!?」

 

 突然アレンが大声をあげたものだから、シャーロットは肩を跳ねさせる。

 しかしすぐにアレンが真剣な顔をしていることに気付いたようで、小さく首をかしげてみせた。

 

「えっと……なんですか?」

「大事な話があるんだ。聞いてくれ」

 

 アレンは言葉を探す。

 だが結局、気の利いた台詞は見つからなくて……直球勝負に出ることにした。

 


「シャーロット! 俺は、おまえのことが――」

 


 ドガッシャアアアアアア!!

 


 しかし一世一代の告白は、突然の轟音と砂埃で遮られた。



「げほっげほっ……! なっ、なんだ……!?」

「ひっ、ひええ……!」


 シャーロットを胸に抱いて(かば)いつつ、音の方向に目を向ける。

 見れば家の壁に大きな穴が開いていた。日の光が差し込むその先に立っていたのは……見知らぬ人物だ。

 黒いスーツを着込み、黒髪を撫で付けた仏頂面の青年。

 それが、ぽかんとするアレンたちに折り目正しく頭を下げる。


「気配を察知して参りました。突然の訪問、失礼いたします」

「は……?」


 アレンもシャーロットも、目を瞬かせるしかない。

 だがしかしドロテアの反応は違っていた。

 

「でっ、で……出たあああああああああ!?」

 

 そんな悲鳴を上げて脱兎(だつと)のごとく逃げ出すのだが――。

 

「させません」

「はうっ!?」

 

 素早く回り込んだ青年に手刀をくらい、ドロテアはどさっと倒れてしまう。そのまま彼はどこからともなく取り出したロープで彼女を手早く縛り上げた。ひどく慣れた手つきであった。

 あきらかな事案なのだが、アレンは助け舟を出すでもなく見守ってしまう。

 芋虫のように転がるドロテアを見下ろして、青年は淡々と言葉を紡ぐ。

 

「どうもお久しぶりです、ドロテア先生。三十年と四ヶ月十日ぶりですね」

「あ、ああ……はい……お久しぶりっすね、ヨルさん……」

「いやはや、まさか原稿をせっついた次の日に失踪なさるとは。あれは担当編集として一生の不覚でしたよ」

 

 やれやれ、と大仰に肩をすくめてみせるものの、その表情筋は微動だにしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミカライズ十巻発売!
flpigx5515827ogu2p021iv7za5_14mv_160_1nq_ufmy.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ