表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/225

七十七話 強制ラブコメ大作戦①

「…………えーっと」

「…………うむ」


 いつものリビングの、いつものソファーにて。 

 アレンとシャーロットはいつも通りに並んで腰掛けていた。

 しかし紅茶を飲むでも、談笑するでもない。ただじーっと固まってしまっている。


 何かを話そうとして、結局言葉が浮かばずに黙り込む。相手の顔すら見ることもできない。そんなことをお互いに続けた結果、先のような意味をなさないやりとりばかりが無為に続いていた。


 拷問に近い沈黙の中――。 

 

「カットカットカーーーット!」

 

 威勢のいい声が響き渡る。

 足音を響かせて乱入してくるのはもちろんドロテアだ。彼女は地団駄を踏んでまくし立てる。

 

「ボクはイチャつけ、って言ったんすよ! それなのになーに黙りこくってくれちゃってるんすか!? 初対面の男女でももっとフランクにお話しできますよ!」

「そう言われても……なあ」

「は、はい……」

 

 ふたりはぎこちなく顔を見合わせるしかない。

 すぐそばの日向では、ルゥがお気に入りの毛布の上で昼寝している。迷惑そうに一度こちらをちらりと見たが、すぐに目を閉じて夢の中へと戻っていった。アレンは心底羨ましかった。


 ドロテアは腕組みし、うーんとうなる。

 

「変に意識せず、いつもどおりにしてくれた方がいいんすけどね。なにも目の前でチューしろとまでは言ってないんだし」

「ちゅ、ちゅー……!?」

 

 シャーロットがぴしりと固まってしまう。

 アレンもその単語にあからさまなダメージを受けたものの、なんとか正気を保つことに成功した。

 

「いやあの、ドロテア。どうやら大きな勘違いをしていると思うんだが……」

 

 おずおずと手を上げてから、途切れ途切れに言葉をつむぐ。

 

「俺たちは……別にそういう、仲では、ない……のだが」

「はあー?」

 

 ドロテアはあからさまに顔をしかめてみせた。

 ふたりをじーっと見つめてみせて……ぽんっと手を打つ。

 

「なるほど、そういうパターンすか。じれじれ両片思いの牛歩ラブコメってやつ」

「じ、じれ……?」

「気にしないでほしいっす。ボクらの専門用語なので。いやー、それはそれで美味しいっすね」

 

 ドロテアはにこにことメモ帳に何かを書き込んでいく。

 楽しそうなのは結構だが、なんだかロクでもなさそうだった。

 そんな彼女を見て、シャーロットは首をかしげてみせる。 

 

「ドロテアさんって……ほんとに小説家さんなんですか?」

「そうっすよー。これでも昔はそこそこ売れっ子だったんですから」

 

 胸を張って答えてみせるドロテアだった。

 アレンはふと思い出し、顎を撫でる。

 

「そういえば、前の住民が残していった小説本が大量にあったが……ひょっとしてあれか?」

「たぶんボクの書いた本ですね。いやあ、あの頃は楽しかったっすねえ」

 

 ドロテアは目を細め、どこか遠くを見る。


 人間の文学に感銘を受けて、単身エルフの里から出てきたこと。

 初めて書いた原稿が運良く出版社の目に留まり、デビュー作が出たこと。

 それ以降も数々の作品を生み出したこと。


 そんな半生をつらつら語ってから……ふっ、と目をそらしてみせた。

 

「でも超弩級のスランプに陥っちゃって、締め切りが近いっていうのに一文字も書けないもんだから……あの地下室に籠城したんすよねえ。いやあ、懐かしい話っす」

「まさかとは思うがおまえ……締め切りから逃げるために、三十年も引きこもっていたのか!?」


 控えめに言ってもクズである。

 白い眼を向けるアレンだが、ドロテアは意にも介さない。


「だってうちの担当編集、めっちゃ怖いんですもーん。白紙の原稿なんか見せたら絶対海に沈められていたっすよ!」

「むしろそのまま海の藻屑に消えてくれていた方が、俺としては助かったんだが……」

「あはは、アレン氏ってばおもしろーい。そんな怖い顔でジョークなんか言えるんすね!」

「……」

 

 ケラケラ笑うドロテアだ。アレンはこの上もなくイラっとしたが、屋敷の件があるため叩き出したいのをぐっと堪えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミカライズ十巻発売!
flpigx5515827ogu2p021iv7za5_14mv_160_1nq_ufmy.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ