六十四話 魔道動物園②
「ほんとに、すっごく……楽しかったです!」
「うむ、よかったな」
ふれあいコーナーすぐそばのベンチで、ふたりは並んで休んでいた。
小一時間ほど『もふもふ』を堪能したおかげか、シャーロットの肌ツヤはとてもいい。いつもより笑顔も眩しいし、ずいぶん満足してくれたらしい。
そんな彼女に、ふれあいコーナーの魔物たちが柵の向こうからわいわい吠える。
「きゅいきゅいー」
「わんわん! わんわんわん!」
「かぴー……」
「ふふふ、みなさんともすっかり仲良くなれました」
「お、おう。そのようだな……?」
シャーロットは微笑ましそうに魔物たちへ手を振る。まあたしかに、一見するとほのぼのとした光景ではある。
魔物言語がわかるアレンは真顔になるばかりだった。
彼らの鳴き声を翻訳すると、だいたい以下のようになる。
『おねーさーんー! あそんであそんでー! もっともっとなでなでしてよー!』
『おいこらそこの人間! 俺らの姐さんに指一本でも触れてみろ! いろんな急所を噛みちぎってやるからな!』
『我がカピバラ道は、貴殿に仕えることと見つけたり……』
だいぶ行き過ぎたファンコールだ。
いくら飼いならされた魔物たちだといっても、これは少々異常と言わざるをえなかった。アレンはそれを見つめながら、シャーロットに問いかける。
「なあ、すこし聞きたいんだが」
「は、はい。なんでしょう?」
「これまで魔物に好かれたことはあるか?」
「へ」
シャーロットは目を丸くする。
「好かれるもなにも、こんなに近くで魔物さんと会うのも初めてですよ?」
「なるほどな。これまで機会がなかったか……もしくは抑圧された環境のせいで力がうまく振るえなかったか」
「なんのお話ですか?」
「まあ、簡単な講義といこうか」
昔取った杵柄だ。
アレンは肩をすくめつつ、語り始める。
「この世には様々な魔法や特殊技能が存在する。中には生まれ持っての才能が必要となるものもあってな……」
ありとあらゆる物を断ち切る剣の才。
普遍的な材料から未知の物質を生み出す錬金術の才。
かく言うアレンも魔法の才能を有しており、高等技術である呪文の詠唱省略を当然のように使いこなせる。
そして、シャーロットは――。
「おまえは……ひょっとしたら魔物使いの才能があるのかもしれない」
「ま、魔物使い……?」
その名の通り、魔物と心を通わせて使役する力を持った者のことだ。
シャーロットはなんの訓練も積んでいないのに、あれだけの魔物を魅了してしまった。可能性は十分にあるだろう。
そう説明すると、シャーロットはぽかんとしたまま、己の手のひらを見下ろしてみせる。
「そんな力が、私に……本当ですか?」
「ああ。しかも相当素質が高そうだ」
アレンでは下級の魔物と意思の疎通を図るのがやっとだが、才能に溢れた魔物使いはフェンリルなどの高位の魔物を意のままに操り、服従させることも可能である。
(……ひょっとして街のゴロツキどもがシャーロットを慕うのも、そうした理由か……?)
魔物だけでなく人間にも効くとなると前例がほとんどない。
だが、もしもその凄まじい力が実家の公爵家で発揮されていれば……彼女の人生はもうすこし穏やかなものになったかもしれない。
すこし複雑な思いを抱いて、シャーロットをじっと見つめていると。
「あ、あの……!」
「む」
そこで声がかかった。
見れば園の女性飼育員がふたりのそばに駆け寄ってくる。服は泥だらけだし、顔色もどこか青い。彼女は息を切らせて、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「さ、さきほど、ふれあいコーナーで、ハーレムを築いていらした方々ですよね。ひょっとして、名のある魔法使いの方々ですか……?」
「俺はたしかに魔法使いだが……なにかあったのか?」
そのただならぬ様子に、アレンは眉を寄せる。
すると彼女はがっとアレンの手を取って、叫ぶのだ。
「どうかお力をお貸しください……! 私たちでは救えないんです……!」





