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六十話  温泉でしかできないイケナイこと③

 せっかくだし、ということでふたりはホテル一推しだという露天風呂に向かった。

 扉を開けて外に出れば、まばゆい光が出迎えてくれる。

 

「わあ……!」

 

 シャーロットが感嘆の声を上げた。

 扉の外に広がっていたのは、鍾乳洞(しようにゆうどう)のような岩肌だ。どうやらこのホテルが建つ崖をそのままくりぬいて作ったものらしく、真正面は大きくぶち抜かれて大海原が見渡せる。

 そしてその大海原の目の前に、巨大な露天風呂が広がっていた。


 白い湯気が立ち上り、硫黄(いおう)の匂いがぷんと漂う。

 洞窟のおかげで日光を直に浴びることもなく、湯を楽しめるというわけだ。おまけに非日常感がすさまじい。

 

「す、すごいお風呂ですね!」

「ああ。これなら人気も納得だな」

 

 アレンも素直にうなずく。軽く湯を浴びて体を流してから、ふたり並んで湯船に浸かった。湯加減は熱すぎず、ぬるすぎず。とろりとした温泉が全身を包む。

 

「わあー……きもちいいですねえ」

「そうだなあ……」


 しばしふたり、海を見ながら湯を楽しんだ。

 ほかの温泉客も似たようなもので、小さな話し声がぽつぽつ聞こえるほかは、潮騒の音だけが心地よく響く。ときおり海鳥の鳴き声も届き、穏やかな時間が流れていく。

 シャーロットは顔を赤らめぽーっとしたまま、うれしそうにつぶやいた。

 

「ずーっと……ここにいたいですねえ」

「そうだなあ」

「でも……いつまでも浸かっていたら、のぼせちゃいますね。ちょっともったいないです」

「ふっ、甘いな。温泉の楽しみ方はこれだけじゃないんだぞ」

「え?」

 

 アレンがニヤリと笑った、そのときだ。

 

「お客様~、ご注文の品をお持ちしました♪」

「丁度いいタイミングだ。礼を言う」

 

 あの人魚のコンシェルジュが、お盆を持って颯爽(さつそう)と現れた。

 彼女から受け取るのは、ガラスの器に盛られたアイスクリームだ。真っ白なバニラアイスに、さくらんぼがひとつ添えられている。

 それを手渡せば、シャーロットの顔がぱあっと輝いた。

 

「温泉に浸かりながらアイス! ぜ、贅沢(ぜいたく)です……!」

「驚くのはまだ早いぞ。《永久凍結(イモータルアイス)》」

 

 ぱちんと指を鳴らせばガラスの器が青白く輝きはじめる。

 湯気に当たってもアイスはわずかにも形を変えず、ほどよくカチカチのままである。

 

「これで湯の中でも溶けなくなった。ゆっくり味わうといい」

「あ、ありがとうございます!」

 

 シャーロットはさっそくアイスを少しだけすくい、ぱくっと一口。その瞬間、幸せそうに顔がほころんだ。

 美味そうに食べるなあ、なんて思って見ていたが、それは他の客たちも同じだったらしい。誰もがシャーロットのアイスに釘付けとなり、顔を見合わせてごくりと喉を鳴らす。


「ねえねえ、おとーさん! 僕もあのアイス欲しい!」

「し、仕方ないなあ。エステ中のママには内緒だぞ?」

「のう、お兄さんや。わしらのアイスにも、その魔法をかけちゃくれんかね?」

「もちろんお安い御用だ!」

「あわわっ、みなさん。順番にご注文を承りますね~!」


 気分が良かったので、アレンはふたつ返事で了承した。

 かくして露天風呂に一大アイスブームが訪れることとなった。

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