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五十七話 いざ、温泉旅行へ②

 この一帯は昔から温泉が有名な観光地であり、あちこちに観光客向けの宿が建っている。中でも今回アレンたちが泊まることになったあのホテルは、真新しい三つ星ホテルだ。

 温泉はもちろん、料理やマッサージなど手広いサービスが特徴で、リピーターも多い……らしい。

 すべてミアハの受け売りだ。

 

『ミアハが互助会の人たちに意見して、魔王さん達にピッタリなプランを選んでおきましたのにゃ。どうぞお楽しみくださいなのにゃ~』

 

 お土産はいいから、レポをお願いしますのにゃーなんて言われたほど。

 そうこうするうちに建物がどんどん近付いてくる。

 シャーロットはハッとして、あの分厚い本を取り出してみせた。

 

「見てください、アレンさん。あのお宿、この本にも載っていますよ!」

「どれどれ……おお、そのようだな」

 

 しかも丸々二ページ、見開きという大きな扱いだ。

 これは本当に期待できそうだなあ、と顎を撫でていると、アレンはふと思い当たることがあった。

 

「ひょっとして、おまえが行きたがっていたのはあのホテルか?」

「……はい!」

「嘘だな」

「うう……すごいです、アレンさん。ほんとに嘘がわかるんですね……」


 シャーロットは叱られた子供のように縮こまってしまう。

 たっぷり迷って目をそらし、震える声で告げられたら誰でも今の嘘は見抜くことができるだろう。ちょっとは世慣れさせるべきなのかもしれない。


 シャーロットから本を借り、アレンはぱらぱらとめくる。

 

「ふむ、ここではないのか……ならばこっちの孤島のホテルか? いや、待て。女性に人気となるとこちらの……」

「す、推理しないでください!」

 

 シャーロットはなぜか真っ赤な顔でアレンから本を奪った。

 

「温泉もちゃんと楽しみですから! だから行きたい場所とかは忘れてください! は、恥ずかしいですから……!」

「『恥ずかしい』?」

 

 アレンは首をひねるしかない。

 

「……行きたい場所がバレるのが、なんで恥ずかしいんだ?」

「だ、だって……」

 

 本を胸にぎゅうっと抱いて、蚊の鳴くような声でぽつりとこぼす。

 

「ち、小さな子供が、行きたがるような場所なので……」

「ふーむ? なるほど」


 だが、そうなってくるとかなり候補が絞られる気がする。そのままつらつらと推理を続けようとして……やめた。

 アレンは肩をすくめてみせる。

 

「まあ、そこまで嫌がるなら暴き立てるのはやめておこう。だがひとつだけ言っておくぞ」

「は、はい?」

 

 きょとんと目を丸くするシャーロットに顔を近づけ、アレンは笑う。

 

「子供の頃できなかったことを、長じてから存分に試みるというのも乙なものだぞ。それもまたイケナイことだ」

「……アレンさんも、子供の頃できなかったことがあるんですか?」

「ああ」

 

 鷹揚にうなずいて、過去へ想いを()せる。

 わりとやりたい放題の人生ではあったが、ままならないことはいくつもあった。だがそれらはすべて後々になって達成したものだ。

 

「地底数千メートルの洞窟にバカ高い魔法鉱石を掘りに行ったり、誰も住んでいない秘境の奥地で広範囲破壊魔法をぶちかましたり……幼少期はどれも叔父上に止められていたからな。(よわい)を重ねてからやると格別だった」

「な、なにか違う気もしますが……楽しそうですね!」

 

 シャーロットは無理矢理に相槌を打ってみせた。

 

「まあ、ともかくだ。俺がおまえの行きたい場所を聞いて『子供っぽい』と笑うと思うか?」

「……いいえ」

「ほらな。だからいつでも言いたくなったら言えばいい。どんな場所でも付き合ってやるからな」

「っ……はい!」

 

 シャーロットは花が咲いたように笑う。

 そもそも彼女にまともな子供時代など、ほとんどなかったことだろう。かつての時間を取り戻すというのは大事な試みだ。

 

(ふむ……童心に返らせる……悪くない方針だな)


 この温泉旅行が終わった後も、教えられる『イケナイこと』はまだまだありそうだった。

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