五十三話 ほしかったもの②
シャーロットはしばしぽかんとしていたが……申し訳なさそうに目をそらす。
「アレンさんに喜んでいただけそうなものも、いろいろ探したんです。魔法道具とか、薬草とか……でも、どれがいいのか、全然わからなくって……」
「あー……それは仕方ないかもねえ」
エルーカが気の毒そうにうなずいてみせる。
たしかに魔法関係のアイテムは素人目には判別付きづらいものが多い。単なる黒い石にしか見えない代物が、実は超絶貴重な鉱石だったりするし、シャーロットにはちんぷんかんぷんだっただろう。
だがしかし、アレンは納得がいくはずもない。
シャーロットの肩を掴んだまま、悲愴な顔でなおも叫ぶ。
「おまえがくれる物ならなんでもよかったんだぞ! その辺の道端に咲いた花だろうと、俺は間違いなく泣いて喜んだ……!」
「それはそれでどーなのさ、おにい」
「やっぱり重いですにゃー」
「やかましい!!」
ヤジを飛ばしてくるふたりは、シャーロットからプレゼントをもらっている。つまり、アレンの敵だった。ジロリと睨みつけても、慣れたもので一切怯えるそぶりがないのも憎らしい。
するとシャーロットがしゅんっと肩を落としてしまう。
「す、すみません……お世話になっているのに気が利かなくて……」
「あっ……い、いや、おまえを責めるわけじゃないんだが……」
アレンは言葉を詰まらせて、慌てて肩から手を離した。
さすがに子供じみた我が儘だったと自省する。
しかし、そんな彼の手をシャーロットはそっと握った。
驚き顔を上げたアレンに、彼女は困ったように笑いかけて。
「私はいただいてばっかりで……アレンさんの好きなもの、なんにも知らないんだなって気付いたんです。だから、ひとまずは……」
そうしてカバンをごそごそと漁る。
取り出したのはアレンへのプレゼント……ではなかった。
「……裁縫道具?」
「はい。アレンさんのローブ、裾がほつれてますよね」
シャーロットは視線をアレンの足元に向ける。
たしかに雑な扱いを続けてきたせいで、ローブの裾は見事なまでにボロボロだ。今日もちょっとした運動会を繰り広げたせいで、さらに酷い有様となっている。
(そういえば……家では裁縫なんかを任されていた、と言っていたか)
だからローブに気付いたのだろう。
シャーロットははにかみながら、小首をかしげて尋ねる。
「ローブ、繕わせていただいてもいいですか? それでその間……アレンさんのお好きなもの、たくさん教えてください。今度はちゃんと、プレゼントが買えるように」
「も……もちろんだ」
アレンはたったそれだけ言って、頷くのがやっとだった。
それはおそらく、どんなものよりもはるかに値打ちのある時間になるだろう。そんな予感が胸に広がる。
背後からは「なんで大魔王なんかに……」「俺も恋がしたい……」「俺も……」なんてヤジが飛んできて心底鬱陶しかったが、気分がいいので大目に見ておいてやった。
「俺も真面目に働いて彼女作ろうかな……」
「だったら俺が口を利いてやるよ。どんな仕事がいい?」
「……動物関係の仕事とか?」
その一方で、冒険者と思えないほど堅実な会話を繰り広げるグローとメーガスだった。





