五十二話 ほしかったもの①
「ところで……えーっと、その、だな」
「はい?」
アレンはすこし目をそらしつつ、言葉を探す。
聞いていいものやら散々迷ったが、結局好奇心に負けてしまった。
「……買い物はどうだった?」
「もちろん、ばっちりです!」
シャーロットは明るく言って、カゴバッグをごそごそと漁る。取り出したのはふたつの包みだ。いかにも女性が好みそうなカラフルな包装紙に、綺麗なリボンが巻かれている。
どうやら目当てのものをちゃんと買えたらしい。
アレンの背後からエルーカとミアハが覗きこむ。
「あっ、それって新規オープンした雑貨屋さんだよね」
「今一番ホットなスポットですにゃ。シャーロットさん、あそこの店で買い物がしたかったのですにゃ?」
「あ、あの、えっと……これは、ですね」
ふたりの顔を見て、シャーロットはすこしばかり緊張したように表情を硬くする。
不思議な反応に三人は顔を見合わせるのだが……やがてシャーロットはごくりと喉を鳴らし、ずいっとふたつの包みを差し出した。
「え、エルーカさんと、ミアハさんへの……プレゼント、です!」
「へ!?」
「にゃあ!?」
「なん、だと……?」
おかげで場がざわりと揺れた。
エルーカとミアハは顔を見合わせ、気遣わしげにシャーロットにたずねる。
「え、ひょっとして、今日街に来たのって……あたしたちに、プレゼントを買うため!?」
「初お給料だと聞きましたにゃ……ほんとにいただいてよろしいのですにゃ?」
「は、はい。おふたりにはいつもお世話になっておりますし……」
シャーロットはこくこくとうなずく。
おかげでふたりはそれぞれ包みを受け取った。包装を取り除けば……可愛らしいプレゼントが顔をのぞかせる。
「わー! イカした猫ちゃんのぬいぐるみだ!」
「ミアハには新しい帽子ですにゃ! どうもありがとうですにゃ!」
「……よかったです」
はしゃぐふたりを前にして、シャーロットの表情がふにゃりと和らぐ。
プレゼントが気に入ってもらえるかどうか、かなり心配していたらしい。
きゃっきゃと笑い合う女子三人。
とても微笑ましい光景だ。ここに水を差す者がいるとしたら、まず間違いなく重罪確定だろう。
だがしかし……アレンはこの空気に耐えられなかった。
「シャーロット!」
「は、はい?」
シャーロットの肩をがしっと掴み、震えた声で訴えることには――。
「……俺には、ないのか」
「おにい……」
「魔王さん……」
「大魔王どの……」
「逆にすげーよ、あんた」
エルーカとミアハ。そればかりかメーガスやグローからも、ひどく残念そうな視線が飛んでくる。
大人気ないと分かっていても、言わずにはいられなかった。