五話 隠居魔法使い、悪役令嬢を拾う④
しばしシャーロットはそのまま泣き続けた。
アレンはおろおろとしつつも、ハンカチを差し出したり、紅茶のおかわりを入れたりして、ひたすら彼女を泣き止ませようと努力した。
やがて彼女は落ち着いて、ぽつりぽつりと語り始める。
「本当に……突然のことだったんです」
あれは一週間前のこと。
王城では、ニールズ王国第二王子……セシル王子の誕生日パーティが行われた。もちろん婚約者である彼女も招待されて、来賓客に挨拶して回ったりしていた。
当のセシル王子とは、言葉を交わすことはなかったという。
「何年も前から婚約は決まっていましたが……滅多に会うこともありませんでしたから」
まれに会っても会話を交わしたことは一度もない。
彼はいつもシャーロットを冷たい目で睨むだけだったという。
だがしかし、宴もたけなわになった頃。
セシル王子がパーティ会場の真ん中に、彼女のことを呼び出した。
客人や兵士たちが見守る中、彼が告げたのは愛ではなく――耳を疑うような宣言だった。
『シャーロット・エヴァンズ! きみの悪行の数々は調べがついている! よって……きみとの婚約を破棄させてもらう!』
突如告げられたのは、そんな婚約破棄宣言で。
そのついでとばかりに暴き立てられたのは、彼女にとって身に覚えのない悪行の数々だった。
それは入念に作られた証拠に裏打ちされており、その場にいた者たちはすべてそれを信じてしまった。
実家も味方してくれることはなかった。
公にはされていないが、シャーロットは当主の愛人の子であった。
彼に子供がなかなかできなかったことから、幼少期にエヴァンズ家に引き取られたのだ。
だがしかし、その数年後に新しく来た妻との間に子供が生まれてしまう。
おかげで彼女はずっと家の中で爪弾きにされていて……濡れ衣を着せられたときも、使用人ですらシャーロットを庇うことはなかった。
彼女はあわや牢獄行きというところで――。
「見張りの隙をついて、家を逃げたんです……」
「なるほど、なあ……」
アレンは顎を撫でる。
単純明快な陰謀劇だ。
おそらく王子は妾腹の彼女と結婚するのが嫌だったか、それとも別に好きな女でもできたのか。理由はなんでもいいだろう。
とにかく王子は、シャーロットが邪魔になったのだ。
シャーロットは頭を深々と下げる。
「この国の新聞にも載るくらいですし、すぐに追っ手がくると思います……あなたに迷惑はかけません。少し休んだら、すぐにここを出て――」
「ひとつ聞きたいんだが」
アレンはその言葉を遮って、ぴんと人差し指を立てる。
「掃除は得意か?」
「……え?」
「答えてくれ」
シャーロットは目を丸くしつつも、おずおずと口を開く。
「えっと、人並みにはできると思いますけど……それが、なにか?」
「いいだろう。完璧な答えだ」
アレンはシャーロットの肩をぽんっと叩く。
「よし、シャーロット。俺がおまえを雇ってやる」
「へ!?」