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四十三話 ひとりのお出かけ①

 それから一時間後。

 シャーロットは準備万端で玄関に立っていた。

 髪を黒く染め、小さなカゴバッグを提げている。頭には前日アレンが送った髪飾りをつけていて、見るからにお出かけの出で立ちだ。

 だが、その顔はとても険しい。

 鏡を覗き込み、自分の姿を入念にチェックしていた。

 

「だ、大丈夫でしょうか……私だってバレませんか?」

「もちろん平気だ。俺以外には解けない魔法だから安心しろ」

「……アレンさんがそうおっしゃるなら」

 

 シャーロットはふにゃりと笑う。

 そうして意を決したように扉から一歩踏み出した。まっすぐに見据えるのは、屋敷から街まで続く細い小道だ。

 シャーロットはいくぶん緊張した面持ちでアレンを振り返る。

 

「それじゃ……行ってきます。日が沈む前には戻りますね」

「ああ。できたら夕飯も適当に買ってきてくれ」

「はい!」

 

 シャーロットはぺこりと頭を下げて、ゆっくりと慎重に歩いて行く。その後ろ姿は不安げだが……それと同時に、なにかに挑もうとする意志の強さを感じさせる。

 陽光に照らし出され、その姿はとても絵になっていた。

 おかげでアレンは目頭を押さえる。

 

「ううっ……ついこの前まで自信なさげで、人形のような少女だったというのに……いつの間にあんなしっかり自分の足で……!」

「何目線なの、その感情」

「だいぶ気持ち悪いのですにゃ」


 隠れていたエルーカとミアハが現れて、冷たい目を向けてくる。

 とはいえアレンは満足だった。シャーロットのあんな背中が見られたのだ。送り出してよかったと心から思えた。

 だがしかし……ここから先が大変だ。

 ローブを(ひるがえ)し、アレンはシャーロットが向かった先をびしっと指差す。


「さあ、そういうわけでミッション開始だ! シャーロットの外出を全力で影から支えるぞ!!」

「バイト代が出るなら、ミアハは文句なしですにゃー」

「あたしはパパとママへの土産話のためー」

 

 かくしてアレンはお供を連れて、意気揚々と街へと向かうのだった。こっそりと。決してシャーロットに気付かれないように気をつけて。




 さて、街は今日も賑わっていた。

 朝は少し曇っていたが、日が昇るにつれて青空が優勢となり、絶好の買い物日和を彩る。

 シャーロットは人が溢れる大通りにたどり着き、小さく嘆息(たんそく)した。

 

「わあ……本当にひとりで来てしまいました」

 

 屋敷からここまで徒歩二十分というささやかな旅路だが、彼女にとっては一大ミッションだったのだろう。

 シャーロットはしばしぼんやり大通りを見ていたが……すぐにハッとして、ぐっと拳をにぎってみせる。

 

「よしっ、まずはここからです。がんばりますよ!」

 

 そうしてバッグから小さな地図を取り出して、うんうん(にら)んでから……大通りを歩きはじめる。

 その姿を、アレンは建物の陰からじっと見守っていた。


「偉い! 偉いぞシャーロット! 俺が教えた通り、ちゃんと地図が見れたな! さすがだ……!」

 

 家を出る前に、アレンは簡単に注意事項を教えていた。


 地図を見ること。知らない人について行かないこと。迷ったときは誰かに道を聞くこと……などなど。

 シャーロットはそれをしっかり守ってくれているようだ。客引きが声をかけても、丁寧に頭を下げて断っていく。今のところ、初めてのお出かけは順調そのものだ。

 

 ますますアレンは胸が熱くなる。はいはいしていた幼子が初めて立ち上がった瞬間に立ち会ったような心境だ。もちろんアレンに子育ての経験など皆無である。


 そんななか、エルーカとミアハがひそひそと言葉を交わす。

 

「ねえ、マジでこれ何気取りなんだと思う?」

「兄とか父親とかですかにゃー……?」

「いやでも、それにしたってさあ……キツいでしょ」

「はい……それはもう絶望的なほどに……」

「やかましいぞ! おまえたち!」

 

 シャーロットに気付かれないよう、小声でツッコミを叫ぶアレンだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アレンさん...過保護過ぎてヤバイですよ...まぁすごく理解できますが...
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