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三十四話 アレンにしか教えられないイケナイこと②

 アレンは紅茶を飲み干して、ごほんと咳払いする。

 

「えーっと……帰るか?」

「は、はい。そうですね」

 

 シャーロットもぎこちなく頷いてみせた。

 お互い、先ほどの露天商店主の言葉を気にしているのは明らかだったが……ふたりともそれに関しては触れようとしなかった。触れる勇気がなかったのだ。

 ひとまずアレンは大通りに向けて叫ぶ。

 

「さてと……おいこら貴様ら! 俺はひとまず帰るが……サボったら即座に呪いが発動するからな! 心して奉仕しろ!」

「「「い、イエッサー!」」」 

 

 ゴロツキ一団が声を(そろ)えて叫ぶ。

 全員にかけたのは軽めの呪いなので死にはしない。せいぜいちょっとしゃっくりが止まらなくなるだけだ。だが彼らには効果を教えていないため、恐怖は絶大だろう。

 あとは見張っていなくても勝手にボランティアに精を出すはずだ。

 

「さて行くか。帰ったらまずはエルーカが寝泊まりする部屋を片付けないとな」

「あー。それはいいよ」

「は?」

 

 エルーカがさっぱりと言ってのけ、アレンは目を丸くする。


「おまえ、居座るんじゃなかったのか。実家に帰るのか?」 

「ううん。街に宿を取ったの。だからおにいたちは家に帰りなよ」

「ど、どうしてですか?」

「いやだって、おにいと同じ屋根の下って息が詰まっちゃうじゃん」

 

 エルーカは平然と言ってのけ、自分の分の買い物袋を持ち上げる。にやりと笑ってウィンクひとつ。


「ま、頻繁(ひんぱん)に遊びに行くからさ。そのときはしっかりもてなしてよね」 

「……そうなると勝負は持ち越しか?」

「いんや。あたしの負けでいーよ」

「はあ!?」

 

 シャーロットにどちらがイケナイことを教えられるかという仁義なき戦い。

 今日一日を費やした勝負のはずなのに、あっさり勝敗がついてしまった。しかしその勝利はアレンにとっては不本意そのものだ。

 

「それはそれで納得がいかん! 理由を言え!」

「自分で考えることだね、宿題だよ」

 

 エルーカはにこやかに言ってのけ、シャーロットに手を振る。

 

「そんじゃまたね、シャーロットちゃん! おにいのことよろしく!」

「は、はい。でも、逆では……?」

 

 シャーロットは戸惑いつつも、エルーカに手を振り返した。

 そのままエルーカは人混みへと消えていって……あとにはアレンとシャーロットだけが残される。


 これで、昨日までと同じふたりきりだ。何の変化も見当たらない。

 そのはずなのに……なぜかお互い、相手を意識してしまっているのが丸わかりだった。気まずい。

 だが、その気まずさは決して不愉快なものではなくて――。

 

「……帰るか」

「そ、そうですね」

 

 先ほどとほとんど同じ会話を繰り返し、ふたりもまた帰路についた。

 

 

 

 

 アレンたちと別れ、エルーカは足取り軽く宿へと向かう。

 

「イケナイことを教えるって言ってもねえ……あたしが教えられることなんて、せいぜいオシャレとか美味しいものだけだし」

 

 その両方とも、シャーロットには手応え抜群(ばつぐん)だった。

 順当にいけば勝利はエルーカの手の中にあっただろう。

 だがしかし……そんな(よろこ)び、アレンが与えるものに比べたら(かす)んでしまう。

 

 髪飾りを贈ったこと?

 ならず者たちの手から守ったこと?

 いいや、それだけではエルーカは負けを認めてやらない。決定打はもちろん――。

 

「『恋』なんてイケナイこと、おにいにしか教えらんないもんねー……ありゃ」

 

 そこでふと、エルーカは足を止める。

 

「そこのお兄さん! なにか困ったこととかありませんか!?」

「どうか俺らに助けさせてください……! じゃないと呪われて死んじまうんです!!」

「ええ……なんなんですか、あなたたち」

 

 あの車椅子の青年が、ゴロツキたちに囲まれて困り果てていた。

 エルーカはしばしそれをじーっと見つめて……やれやれと肩をすくめて、青年へ助け舟を出しに向かった。

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