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三十一話 お人好しの大魔王①

「でも……お怪我はないですか?」

「もちろん。こんな雑魚どもに(おく)れをとる俺ではない」

「すごいです。アレンさんってお強いんですね。びっくりしちゃいました」

「そ、そうか?」

 

 シャーロットはにこにことアレンを()(たた)える。

 おかげで気分がよくなったのだが……彼女はすぐに、地面に転がるゴミどもへと視線を向けて、ちょっぴり眉をひそめてみせた。

 

「でも……この方々どうしましょう。放っておくとお風邪を召してしまいます」

「……自警団にでも突き出せばいいだろう」

 

 本音を言えば、簀巻(すまき)きにしてサメのよく出没する海域に放り込みたいところだが、シャーロットの手前それは勘弁しておいてやる。

 そんなふうにして、ひと息ついていたところ――。 

 

「お、おふたりさん! あれ……!」

「ああ?」

 

 突然、露天商の店主が切羽詰(せつぱつ)まった声を上げる。

 彼女が指差す方を見れば、巨大な人影がのしのし歩いてくるところだった。おかげで沸いていたはずの場が再びしーんと静まり返る。

 

 その人物は地響きを伴いながらアレンたちの前にやってきて……うんともすんとも言わない、ゴミどもを見下ろして(うな)りを上げる。

 

「こいつは……どうやら、うちの若いものたちが世話になったようだな」


 そうしてじろりとアレンをねめつけるのは、岩人族(がんじんぞく)の男だ。


 その名の通り、体が鉱物でできた種族である。かなり大柄で、人間の身の丈およそ二倍が平均身長。ずんぐりとした体軀(たいく)から繰り出される攻撃は、シンプルながらに絶大な威力を誇る。


 目の前の男も(たる)で酒を飲み干して、紙くずでも丸めるようにして潰してみせた。ちょっと手で払っただけでも、人間などあっさり吹き飛ぶことだろう。


(ああ、さっきゴミどもが言っていた、岩窟組(がんくつぐみ)とやらの親玉か)

 

 よくよく見れば彼の後ろには二十名ほどの一団が控えている。どいつもこいつも先ほどアレンが倒したゴロツキたちと似たような風体(ふうたい)で、そろってこちらを(にら)んでいた。


 どうやら……またややこしい事態になりそうだ。

 

「あ、アレンさん……」

「大丈夫だ、シャーロット。俺に任せて……おや?」

 

 震え上がるシャーロットに笑いかけてから、アレンは岩人族(がんじんぞく)に向き直る。だが、ふと片眉を上げて黙り込んだ。

 そうしてじーっと、目の前の巨人を見つめてみせて……ぽんっと手を叩く。


「おまえ、ひょっとしてメーガスか?」

「……俺の名前がどうかしたのか」

「おおお! 本当にメーガスなのか!」

 

 (いぶか)しげに顔をしかめる岩人族こと、メーガス。

 そんなことにはおかまいなしで、アレンは嬉々として彼に語りかける。おかげで後ろに控えた手下たちが不思議そうに顔を見合わせた。

 

「いやはや懐かしい! 七年ぶりくらいか。息災だったか?」

「なんだ馴れ馴れしい……貴様のような人間に覚えはない!」

「ああ、やはり種族が違うと顔の見分けは難しいよなあ」


 アレンはくつくつと笑う。

 まさかの場所での再会に胸が躍った。

 そうして彼は――堂々と名乗る。

 

「俺だ。アテナ魔法学院にいた、アレン・クロフォードだ」

「は………………っ!?」

 

 瞬間、メーガスの巨体が雷に打たれたように震えた。

 取り巻きどころか、心配そうに見守っていたシャーロット、ならびに観客たちも首をひねる。しかし……すぐに彼らは息を飲んでどよめくことになる。

 

 ドガァッ!!

 

 メーガスがその場で勢いよく土下座したからだ。

 額を地面にこすりつけながら、彼は震えた声を張り上げる。

 

「だ、大魔王どのとは存じ上げず失礼しました……! 非礼をどうかお許しください! なにとぞ……なにとぞぉ!」

「どうしようかなあー」

 

 ふふんと不敵に笑い、アレンはわざとらしく(あご)を撫でた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔王アレンは大魔王アレンに進化した!!
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