三十話 ならず者の末路②
ドゴォッ!!
ゴロツキAは勢いよく近くの壁に叩きつけられて、巨大なクレーターの一部と化した。
ピクリとも動いていないが、死んではいないだろう。不本意ながらアレンはちゃんと加減したのだから。
「なっ、てめえ……! よくも俺の仲間を!」
ゴロツキBが気色ばんで剣を抜く。
するとその剣身に紅蓮の炎が宿った。火の魔法がこめられた魔剣なのだろう。こういった武器も魔法道具の一部である。
往来での抜刀ということもあって、周囲がにわかに騒がしくなる。
だがしかしアレンは――。
「うちのシャーロットに……!」
「っ!?」
舞い散る火の粉に臆することもなく、相手の懐に飛び込んで。
「その薄汚い手で指一本でも触れようものなら……!」
呪文全てを省略した氷魔法を素早く剣にぶちこんで無力化し。
「肉片ひとつ残さずに丁寧に摩り下ろすぞゴルァ!!」
最後に放つのは渾身の拳。あっさり魔剣はバキッと折れて、ゴロツキBは土手っ腹に一撃を食らって汚い唾を吐き散らした。そのままどさっと地面に倒れて動かなくなる。
「はーっ……スッキリした」
アレンが爽やかに額の汗をぬぐった途端。
「っっっ、すっげー!!」
「兄ちゃんやるじゃねーか!!」
「よくやってくれた! ざまあみやがれってんだ!」
固唾を飲んで見守っていた通行人たちから、割れんばかりの歓声が轟いた。
中にはあの露天商の店主もいて、全力で拍手を送ってくれる。どうやらこの連中、相当悪名が轟いていたらしい。誰も彼らの身を案じるものはいなかった。
「ああ、声援感謝す……あっ」
アレンはギャラリーへ鷹揚に応えていたが、不意にハッとする。
すぐ真後ろのシャーロットに慌てて向き直って頭を下げた。
「す、すまない。喧嘩はダメだと言われていたのに、つい手が出てしまった……怖がらせてしまっただろうか」
「い、いえ……」
シャーロットはぽかんとしたまま、ゆるゆるとかぶりを振る。
顔色はすこしだけ青白いものの……笑みを作ってみせた。
「乱暴はいけませんけど、私を助けてくださったのはわかりますから。それに……」
シャーロットはアレンの手をそっと握る。
細い指先はわずかにも震えてはおらず、ぬくもりが心に染み渡った。
「私がアレンさんを怖がるはずありませんよ」
「……そうか」
アレンはようやく人心地つくことができた。
シャーロットに嫌われたり、怖がられたり……そんな取り返しのつかない展開だけは、どうやら回避できたようだ。
(……おや? 俺は最初、シャーロットのことを『すぐに俺を嫌って去っていく』と思っていたはずだよな……?)
そして、アレンはそれを受け入れていた……はずだった。
その意識がいつの間にか変わっている。これがエルーカの言っていた変化というやつなのだろうか。
「ふっ……そういうことか」
「はい?」
「いやなに。俺としたことが、どうやらヤキが回ったらしい」
アレンはシャーロットの肩に手を添えて、にこやかに告げる。
「おまえにイケナイことを教えることが……よほどクセになっているようだ」
「そ、そうなんですか?」
シャーロットは小首をかしげてみせる。
残念なことに、アレンの辞書に恋だの愛だのという言葉は載っていなかった。
そうした類の甘酸っぱいイベントからは、とんと縁遠い人生であったため。