二十九話 ならず者の末路①
「ちょ、ちょっとお兄さん……!」
「む」
男たちと対峙していると店主の女性が声をかけてきた。
わざわざ店の外まで出て、彼女はアレンにそっと耳打ちする。
「こいつら、最近このあたりで問題を起こしてばかりいるパーティの一員だよ。面倒になる前に逃げな。私がなんとかしてあげるからさ」
「だが、そうなると店主どのに迷惑がかかるだろう」
「私のことより、連れの子を守ってやんなさいよ」
「悪いがどちらも優先事項だ。迷惑はかけないから、どうか離れていてくれ」
「もう……どうなっても知らないよ」
店主の女性は心配そうにしつつも身を引いた。
しかし彼女の言葉の通りなら、厄介な相手に目をつけられてしまったことになる。
ひとまずシャーロットにぶつかった方をゴロツキA。もう一方をゴロツキBと簡易的に分類しておく。
Aの方はアレンの頭の先からつま先まで、値踏みするような不躾な眼差しを向けて、顔を険しくする。
「見ねえ顔だな……街の新米か?」
「っつーことは、俺らがあの岩窟組だってことも知らなさそうだな」
「たしかに、その名にとんと覚えはないな」
冒険者は何人かで集まってパーティを組むのが定石だ。
中には大人数が寄り集まって、一個小隊ほどの規模になるパーティもいる。そうした集団は知名度が高くなるものなのだが……街外れで引きこもりがちのアレンが、そんなものを知っているはずはない。
ふんぞり返ったまま、男たちへ言ってのける。
「だが、ひとまず穏便に済ませてもらえると助かるぞ」
「ああ? なんだその態度は……いや」
ゴロツキAのこめかみに青筋が浮かぶ。
しかしそれはすぐに消え去って、かわりに彼は嘲るような笑みを浮かべてみせた。
「いいぜ、許してやろうじゃねえか。だが条件がある」
「話が早くて助かる。いくらほしいんだ」
「それよりもっと簡単な話だ」
財布を出そうとするアレンを制してゴロツキAが見やるのは……シャーロットだ。
「そこの女、一晩俺らに貸せ」
「…………は?」
アレンはぴしりと固まった。
言葉の意味は明解だ。理解はできる。
だがそれを脳で処理する際に、深刻なエラーが発生した。指から熱が引いていき、息が完全に止まってしまう。
そんなアレンの反応をどう捉えたのだろうか。
ゴロツキAとBはアレンを無視して、下卑た視線をシャーロットに向ける。
「見たところけっこう上玉じゃねえか。最近は商売女と遊ぶのも飽きてきたところだったしなあ」
「どうよ、お嬢ちゃん。もう彼氏と初体験は済んだのか?」
「はつ、たいけん……って、なんですか?」
「マジかよ! 今時こんな女いるんだな!」
不快な笑い声が重なり合い、往来に響く。
おかげで通行人たちが足を止めてこちらを注視した。誰もがただならぬ雰囲気を感じ取りつつも、助け舟を出すことを躊躇しているようだった。
ゴロツキたちはおかまいなしだ。
ついにシャーロットを捕らえようと手を伸ばす。
「なあ、俺たちと来いよ。そんな安物より、もっといいアクセサリーなんか買ってやるからさ」
「ひっ……や、やめてください」
「遠慮すんなって。せいぜい俺らのテクニックで、天国を見せてや――」
その虫唾の走るセリフは、半ばで途切れることとなる。
気付けばアレンの拳が、ゴロツキAの頰にめり込んでいた。
まるで時間が引き延ばされたかのように、男の顔がゆっくりと歪んでいく。シャーロットや店主、その他大勢の通行人たちの目が驚愕に見開かれる。
ああ、ついにやってしまった。
そんな後悔をちょっぴり抱いたものの――。
「死にさらせゴミムシが!!」
アレンは心置きなく拳を振り抜いた。