二十七話 小さな贈り物②
そんなこんなで、ティータイムの時間はまったりと過ぎていった。
気付けばいつの間にやら日が傾き始めていて、道行く人々の顔ぶれも変わってくる。
日中は普通の市民が多かったが、ダンジョン帰りらしき冒険者の一行が増えてきた。日がとっぷり沈んだ後は、彼らが酒場で今日の冒険を肴に酒盛りを繰り広げるのだろう。
(……シャーロットは怖がるかな)
脳裏をよぎるのは、彼女を追ってきた兵士たちだ。
見れば、似たような重鎧をまとう冒険者もちらほらいる。シャーロットは今のところ怯えるそぶりを見せてはいないが……まあ、頃合いだろう。
残った紅茶をぐいっと飲み干して、アレンは言う。
「さてと。そろそろ帰るか」
「そ、そうですね。もうお夕飯の時間ですし」
シャーロットはこくこくとうなずく。
しかしエルーカは声高にブーイングを上げるのだ。
「えー! 夜はまだこれからじゃん! ほらこれ、ガイドブックで美味しい店をピックアップしておいたんだから!」
「……まだ食うのか?」
エルーカが先ほどまで食べていたはずの特大クレープは、すっかり影も形も見えなくなっていた。
アレンなど見ただけで胸焼けしそうなほどだったが、エルーカにとって甘いものは別腹のようだ。付箋まみれのガイドブックをシャーロットに開いてみせる。
「ほら、こことかどう? チーズの専門店なんだって。たっぷりチーズのピザとか、チーズフォンデュとか、チーズ・イン・ハンバーグとか!」
「ち、チーズですか……!」
シャーロットが喉を小さく鳴らし、ガイドブックに釘付けとなる。彼女もケーキセットを平らげた後だが、やはり別腹らしい。
こうなってくると二対一だ。アレンはおとなしく動向を見守る。
シャーロットが乗り気なら、付き合うのも悪くない。
そこは文句ないのだが……。
(……俺の旗色が悪くないか?)
どちらがシャーロットを喜ばせられるか、という兄妹の仁義なき戦い。
今は圧倒的にエルーカが優勢だ。
負けたからといって何もないのだが、シャーロットの保護者として、負けられない戦いがここにあった。
外敵はもちろん排斥する。
なにに怯える必要もなく、ただ笑っていられる日々を送る。
そこまではもう前提条件だ。その程度では物足りない。もっともっと、彼女を幸せにしないと気が済まなかった。
むー……っと悩んでいると。
「おや?」
そこでふと目に留まるものがあった。
そして、ちょうどそこで女性陣の話がまとまったらしい。
「よーっし。それじゃ早速行きましょっか! もちろんおにいの奢りで……はれ?」
「え、エルーカさん?」
そこでエルーカがぴたっと口をつぐんだ。不思議そうに首をひねるシャーロットに目もくれず、愚妹は席を立ち、迷いなく大通りを突っ切っていく。
そうしてそこにいた……線の細い青年の手をがしっと掴む。青年は車椅子に乗っていて、その車輪はほんのすこしだけ地面から浮かんでいた。
「ちょーっといいですか!? おにいさん!」
「ふぇっ!? な、なんですか……?」
「そのイカした魔法車椅子、どこの工房の仕事!? そんなカッコいいの、あたし見たことないよ!」
「ああ……これですか? どこの工房、というか……僕が作ったものなんですが……」
「マジで!? すっごーい! 動力は風の魔法だよね? しかもこの素材の組み合わせで、こんなに安定して動作してるなんてマジヤバだし――」
「え、えーっと……」
エルーカは戸惑う青年を捕まえて、道端で魔法談義に花を咲かせてしまう。
そのキラキラとした目は、アレンやシャーロットのことなど完全に忘れてしまったようだった。
シャーロットはきょとんとそれを見守っていたが、やがて相好を崩す。
「エルーカさん、ほんとに魔法がお好きなんですね。いいなあ。私もあんなふうに、好きなものがあったら…………って、あれ?」
そこでふと、テーブルに自分ひとりでいることに気付いたらしい。きょろきょろとあたりを見回す彼女に、アレンは離れた場所から声をかける。
「おーい。こっちだ」
「あ、アレンさん!」
呼びかけに応えて、シャーロットがこっちに――喫茶店すぐそばに店を構える、露天商までやってきた。





