二十六話 小さな贈り物①
それから二時間後。
お洒落な喫茶店で、三人はひとときのティータイムを堪能していた。大通りに面したテラスは日当たりも良く、人通りが見渡せて賑やかだ。
「いやー、いっぱい買ったねえ!」
「うむ。なかなか有意義な時間だった」
「ふ、ふええ……」
満足げなクロフォード兄妹。
それに反して、シャーロットは浮かない顔だった。青白い顔で、ケーキセットにもほとんど手をつけていない。
「む。どうした、シャーロット。ひょっとしてまだ買い足りないのか?」
「逆ですよ!」
シャーロットは声を上げる。
そうして示すのは三人の後ろに積み上げられた紙袋の山だ。中身はすべてシャーロットの服だったりアクセサリーだったり、靴だったり。
あの店だけでなく、他にも何軒も回ってウィンドウショッピングを楽しんだ。
それがシャーロットには戸惑いの元らしい。
「私ひとりのために、こんなにたくさん買うなんて……! お金は大事に使ってください!」
「いやだって、全部似合っていたし」
アレンは平然と言う。
何を着せてもシャーロットにはよく似合った。
女性らしいふんわりした服も、動きやすそうなカジュアルな服も、大人っぽい清楚な服も。
「家でもまた、あの姿を見たいしな。言わば俺のために買ったようなものだ。だから気にするな」
「うっ、うううー……」
シャーロットはなぜか顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。
おかげでアレンは首をひねるのだ。
「なんだ、その反応は?」
「いや、天然ってすごいわー」
エルーカはけらけら笑いながらクレープをパクつく。
フルーツとクリーム多めのボリュームのあるものだが、一切口の周りを汚さない手際の良さはさすが女子といったところだろうか。
「でも、おにいはセンスなさすぎだよね。なにあの、勧めてたスカート。長すぎでしょ」
「はあ? 膝が隠れる程度の長さのどこがだ。あれでも短いくらいだぞ」
「お年寄りかな? あー、やだやだ。若者のファッションが分からない人はこれだからなー」
「おまえのような痴女めいた趣味嗜好よりよほどマシだと思うが?」
睨み合うアレンとエルーカ。
おかげてシャーロットはあわあわと慌て始める。
「だ、ダメですよ、喧嘩しちゃ。ご兄妹なんですから仲良くしてください」
「ああ、すまん。だがこれくらい喧嘩でもなんでもないぞ」
シャーロットを安心させるべく、アレンは笑う。
この程度は実家にいた頃、挨拶がわりにしていたようなやり取りだ。エルーカもにかっと笑う。
「そうそう。あたしらがガチ喧嘩したら血を見るからさ☆」
「見たくないです……」
「だが喧嘩か……それも悪くないな」
「ひょっとして、『イケナイこと』?」
「うむ」
シャーロットは意思表示が不得意だ。
喧嘩の真似事みたいなことをすれば、それもちょっとはマシになるかもしれない。先日のサンドバッグみたく、アレン相手に罵倒する練習とかもありか……と思ったのだが。
「いや……喧嘩は却下だな」
「えっ、なんで?」
不思議そうに首をかしげるエルーカに、アレンは真顔で告げる。
「俺がガチで凹みそうだからだ」
「おにいって図太そうに見えて、変なところでガラスのハートだよね」
「そ、そんなことしませんからね!」
シャーロットは慌てたように叫び、アレンに真面目な顔を向ける。
「喧嘩はイケナイことじゃなくて、ダメなことです。いいですね?」
「わかった、わかった」
アレンは苦笑してうなずいた。