二十四話 傷痕①
しばしアレンはカーテンの外で、布ずれの音と女性陣のきゃっきゃとした声をじーっと聞いていた。
「首の後ろの留め具かな。どれどれ、ちょっと後ろを向いてくれる?」
「こ、こうですか?」
「うーん……なるほど。これはたしかに留めにくいよねえ」
なんの変哲もない会話。
そこでアレンはふと眉をひそめる。
(今、エルーカの声がすこし篭もったな?)
なにかに気付いたような、ハッと息を飲んだような、そんな感じだった。しかしその変化は些細なもの。うまく取り繕ったので、シャーロットは気付きもしなかったようだ。
アレンは首をかしげる。
そうするうちに、カーテンがさっと開かれた。
シャーロットは先ほどとはまた違った出で立ちに変身しており、その隣でエルーカが得意げに笑う。
「ほら、おにい。今度も超かわいいでしょ?」
「……今度も露出が高くないか?」
先程はミニスカートだったが、今回は丈の短いホットパンツだ。
また先ほど煩悩が湧き上がってきそうになって、さりげなく視線を上へと向ける。トップスはわりと大人しめで、ほっと一安心。
エルーカがやれやれと大仰に肩をすくめてみせる。
「おにいは堅いなあ。これくらい攻めないと、女子は勝負できないんだよ」
「なにと戦っているんだ、世の女性陣は」
こちらとしては露出を下げて、防御力をガッツリと上げてほしいところなのだが。
「それよりおまえ、中でなにかあったのか?」
「うんー? なんのこと?」
エルーカはきょとんと惚けてみせる。
アレンからしてみればミエミエの誤魔化し方だ。しかし、なぜかそれをこの場で追求するのは躊躇われた。
アレンの中で、言いようのない不安が広がっていく。
「ともかくほら、シャーロットちゃんをちゃんと見てあげてよ。この服、後ろもすごいんだから」
「後ろって、背中か……?」
「そうそう! 超大胆なんだから」
エルーカはいたずらっぽくウィンクしてみせる。
シャーロットの肩に手を添えて、エスコートするように示す。
「さ、ほら。シャーロットちゃん。ここでくるっと回って見せたげてよ」
「うう……でも、この服も恥ずかしいですよぉ……」
「問答無用! とりゃー!」
「きゃわっ!?」
シャーロットがその場でくるりと回る。
おかげで……アレンは言葉を失った。
「どうどう!? この服、前から見たら普通だけど、背中がばっくり開いてるの! 超大胆でイカしてるでしょ!」
「ううう……もうすこし布地をください……」
シャーロットは恥ずかしそうに俯いてしまう。
しかし、ふとアレンに気付いて首をかしげるのだ。
「あ、あれ。アレンさん? どうかしましたか?」
「ああ。いや、なんでもない」
アレンは笑みを作ってみせる。
試着ブースから出たエルーカのかわりに、アレンはそこに立つ。シャーロットに後ろを向かせて、鏡を覗かせる。
不安げな彼女に、アレンは鏡ごしに笑いかけた。
「ちょっと露出が高いのはいただけないが……似合っていると思うぞ」
「そ、そうですか?」
「ああ。自信を持て」
アレンはシャーロットの肩に手を置いて、はにかんでみせる。
そうしてそっと、彼女に気付かれないように目線を下げた。
背中が大きく露出して、肌が外気に触れている。ほのかに赤く染まったそこには……数多くのあざが刻まれていた。
(……形状から見て、鞭か)