表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/225

二十三話 いざ、街へ!③

 ドン引きの声で叫ぶシャーロットだった。

 一方でエルーカは呆れたように肩をすくめてみせる。


「相変わらず、おにいは息をするように無茶するんだから。ほらほら、シャーロットちゃん。こんなのほっといて次はこっちを着てみてね」

「で、でも心臓が止まったんですよ!? 大丈夫なんですか!?」

「一秒か二秒でしょ、問題ないない。さ、行った行った」


 慌てふためくシャーロットに服の山をもたせ、エルーカは手早く試着ブースに押し込んだ。有無を言わせぬ手際の良さに、アレンは舌を巻いてしまう。


 かくして試着ブースの前には兄妹だけが残された。


「それで」


 エルーカはちらりとアレンを見やる。


「あたしは何をすればいい?」

「とりあえず、ニールズ王国の現状を知りたい」


 アレンはゆっくりと立ち上がり、あごを撫でる。

 カーテン一枚を(へだ)てた向こう。シャーロットには決して届かないくらいの小声を心がけて淡々と話す。


「一度は追っ手をうまく撃退したんだがな。それで追跡を諦めてくれたのか、それともまだ躍起になって探しているのか。新聞だけではその辺がどうも見えてこない」


 一時期、新聞の一面を賑わせていたニールズ王国の事件だが、最近ではとんと紙面で見なくなっていた。

 センセーショナルな事件には違いないが、続報がなくて記者も書きようがないのだろう。


 だからあちらの情報がほとんど入ってこない。情報屋を当たってもいいのだが……下手に勘繰(かんぐ)られても面倒だ。


「だからかわりに調べてくれるか?」

「任せなさいな。ニールズ王国にもパパの知り合いがいるだろうしね。それとなく探ってみるよ」


 エルーカはウィンクひとつ返してみせる。


「そのついでに、例の王子とか、あの子の家のこととかも調べてあげよっか」

「……まあ、そっちはまだいいだろう」

「ありゃ、泳がせとく気? それにしたって情報を得るのは大事だと思うけど」

「調べたら……知ってしまうだろう」


 アレンは小さく溜め息をこぼしてみせる。


 気にならないといえば嘘になる。シャーロットを(おとし)めたのがどんな人間なのか、彼女が実家でどんな扱いを受けていたのか。

 だがしかし、それを知ってしまったら――。


「知ってしまったら、黙ってなどいられない。シャーロットの気持ちも無視して俺はあの国に乗り込んでしまうだろう。だから、まだ当分は調べなくていい」

「ふーん」

「……なんだその顔は」

「いやいや、おにいも変わってきたなあって」


 エルーカはにやにや笑いながら、アレンの脇腹をつんつんする。


「おにいが誰か個人をここまで気にかけるなんて、これまでなかったじゃん。いいことだよ」

「……そうか?」


 アレンは首をひねる。


 たしかに家族以外の他人をここまで気にかけ、心配したためしはあまりない。だがしかし……それが何故『いいこと』につながるのかはわからなかった。


「そんじゃ言われたことだけ調べてあげる。報酬(ほうしゆう)は実家に戻って――」

「全力で断る」

「でしょーね」


 エルーカは呆れたように笑ってから、シャーロットのいる試着ブースをちらりと見やる。


「ま、しばらくは待っててあげるよ。シャーロットちゃんのこともあるしね。かわりにあたしの魔法道具造りを手伝ってよ」

「いいぞ、その程度で済むなら安いものだ」

「やった! おにいがいるなら百人力だよー」


 エルーカはにこにこ笑って、アレンの肩をばしばしと叩く。

 有能だし話も早い、できた妹だ。自分に似て陰キャラにならなくてよかったと、心から思った。


「あのー……」


 そこで試着ブースの中から、声がかかった。


(まさか先ほどの話を聞かれたか……!?)


 そう思ってアレンは息を飲むのだが、エルーカが平然と話しかける。


「うん? どうかした?」

「すみません……ちょっと、背中の金具がうまく留められなくって……」

「なるほどなるほど! ちょっと待ってねー」


 エルーカは何のためらいもなく試着ブースに入っていった。

 おかげでアレンは慌てて目をそらす羽目になる。隙間からわずかに肌色が見えたが、自身に洗脳魔法をかけることでその刹那の記憶をきれいさっぱり消し去った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミカライズ十巻発売!
flpigx5515827ogu2p021iv7za5_14mv_160_1nq_ufmy.jpg
― 新着の感想 ―
[気になる点] うーん...心臓を止めた直後に思えないほどの切り替え...手練れてるなぁ...誰かツッコミを..
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ