二十二話 いざ、街へ!②
街はいつ来ても賑やかだ。
アレンは五日に一度くらいの頻度で、日用品や食材を買いにここに来る。あとはちょっと魔法道具屋をのぞいたり、本屋をひやかしたり。
アレンひとりだと、その程度の場所にしか用事がない。
だから……まさか自分が、こんな店に足を踏み入れるなんて思いもしなかった。
「ほらほら! シャーロットちゃん、こっちも似合うよ!」
「えっ、えっ、あの」
戸惑うシャーロットに、エルーカが次々と服を手渡していく。
それをアレンは数メートル離れた場所で、じーっと見つめていた。気配を殺しつつ。
(場違いで気まずい……)
店の中をぐるりと見回すが、男性客はアレンだけだ。
ほかはみな若い女性で、きゃいきゃい&きゃぴきゃぴしている。
内装はファンシーそのもの。広い店内には女性ものの服がたくさん並んでいて、靴やアクセサリーなんかも棚に飾られている。
街の中でも一二を争うくらい人気のブティック……らしい。
満ちる空気は『陽』そのもの。
自他共に認める『陰』キャラであるアレンにとっては、完全に世界が違う場所だった。
「いらっしゃいませ~。お付き添いですか?」
「お、おかまいなく……」
若い女性店員がにこやかに話しかけてくるのも、キツい。
しかし店外に逃げることはできなかった。エルーカとの勝負があるからだ。
どちらがシャーロットをよろこばせるか。そんな基準の曖昧な勝負に、アレンもエルーカも全力なのだ。
(思えば子供の頃も似たような感じだったな……)
アレンがクロフォード家に引き取られたのは九つのとき。エルーカはまだ五歳だった。だがしかし、エルーカは年の差もものともせず、突然できた兄に付いて回っていろんな勝負を挑んだものだ。
かけっこやチェス、魔法などなど。
当然、毎度アレンが圧勝だったが、エルーカはめげることなく挑み続けた。
ひょっとすると、あれは彼女なりにアレンと打ち解けようと努力したのかもしれない。
「ちょっとおにい!」
「む?」
顔を上げれば、エルーカがこちらをジト目で見ていた。
「ぼーっとしないでよ。ほらほら。どうよ、シャーロットちゃんの変身後」
「は、はうう……」
いつの間にか、シャーロットは着替えていた。
フリル多めの白いブラウスに、ふんわりした形の花柄スカート。首元には薄手のスカーフが巻かれていて涼やかだ。
最初に出会ったときのドレスに比べたら、生地もデザインもずいぶん庶民的。ただ、こちらの清楚な出で立ちの方がずっと彼女に似合っていた。
だがしかし……ひとつ、大きな問題があった。
「それは……短すぎないか……?」
「はあ? これくらい普通だし、かわいいじゃん」
エルーカは平然と言ってのけるが、シャーロットのスカートは極端なミニだった。
白い太ももが露出していて、おもわずそこに釘付けになってしまう。最近アレンが食事とおやつを適度に与えているせいか、健康的にふっくらしている。すべすべしている。
それ以上の感想が出てこなくて、アレンは固まってしまう。
だがエルーカは絶好調だ。シャーロットに飛びついて、頬ずりしてみせる。
「ほんっと超かわいいよねー! スタイルもいいし、あたしの見立てに間違いはなかったね! 超似合ってるぜ☆」
「で、でも、やっぱり恥ずかしいです……」
シャーロットはスカートの端を押さえてもじもじする。
眉をへにゃりと下げて、耳まで真っ赤になっている。これまでこんな短いスカートなど履いたことがないのだろう。すり合わせる太ももも、ほんのりピンク色に染まっていて――。
「ぐっ、ふ……!」
「へ!? アレンさん!」
くぐもった声を上げて、アレンはその場に崩れ落ちる。
おかげでシャーロットが心配そうに駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫ですか!? ひょっとして体調がお悪いんじゃ……」
「……ああ。問題ない」
彼女に青白い顔を向け、アレンは笑う。
「心を静める必要があったのでな。ちょっと心臓を止めてみただけだ」
「そんな気軽に止めていいものなんですか!?」