二百十二話 ささやかな交流②
そんな話をする横で、シャーロットがふと作業机の上に目を留める。
「あれ? これは何ですか?」
「あわわっ、そ、それは……!」
マリオンが慌てるなか、シャーロットがそっと手に取り目を輝かせる。
「きれいなペンダントです!」
「それはその……息抜きで作った魔法道具なんやけど……」
マリオンはもごもごと言葉を濁す。
金のチェーンに青い宝石が付いた逸品である。マナダイヤ以外にもさまざまな輝石が採れるので、ついでにここに運んでおいた。それを使ったのだろう。
「そんなものを作るくらいなら指輪の試作品を作れ!」
「い、息抜きは息抜きなんやもん! 仕事とは別なんよ!」
アレンの一喝に、マリオンは怯えつつも反論した。
またシャーロットの背中に隠れつつ、ペンダントをつつく。
「こ、これはね、持っとるだけで魔力を底上げできる効果があるんよ。息抜きに作ったもんなんやけど……どうやろか」
「とっても素敵です! こんなのを息抜きで作っちゃうなんて、やっぱりマリオンさんはすごいです」
「そっ、そんなことあらへんけど……よかったらシャーロットさんにあげよか?」
「ええっ!? で、でもこんな貴重なものをいただくわけには……」
「ええよ、どうせ大魔王さんが採ってきてくれた石やし」
マリオンはあっけらかんと言って、シャーロットの手にペンダントを握らせる。
そうしてにこやかなまま続けることには。
「あ、でも気を付けてね。ちょっと効果が強すぎて、持っとると魔法の威力が百倍くらいになったりするから。うちのお客さんで、蝋燭に火を灯そうとして、家を丸焦げにしてもーた人が昔おって――」
「や、やっぱり私は見ているだけで十分です……」
シャーロットは真顔でペンダントを返却した。
「そう? それじゃあ他にもあるんやけど……見る?」
「見ます! わあ……どれもきれいですねえ」
ペンダントに指輪、腕輪にブローチ……さまざまな宝飾品をマリオンは部屋のあちこちから持ち出してくる。作った端から放置していたらしい。それでもどれも細かな彫刻が施されており、その方面に疎いアレンでも芸術性の高さが分かった。シャーロットもすっかり夢中である。
盛り上がる女性陣をよそに、アレンはぽつりと言う。
「百倍なあ……本当に腕前は確かなんだな」
そこまで高度なバフ魔法道具ともなると、作成可能な職人は一握りだ。
魔法道具技師見習いのエルーカが見れば興奮のあまり卒倒することだろう。そのくらい高等な技術が使われているのだ。
「あそこまでの腕前がありながらスランプが多いのは……やはり根本的に自信が欠如しているからでは?」
「それはあるでしょうねえ」
メーガスは小声でうなずく。
「俺と里を出て、あいつもすぐにこの仕事を始めたんですよ。そっからわりとすぐに軌道に乗ったんですけど……そりゃまあ気弱故にトラブル続きで」
足下を見た客から安値をふっかけられたり、無茶な仕事を引き受けさせられたりと揉め事が多かったらしい。それゆえ、今ではメーガスがマネジメントのような真似をして仕切っているという。
「あいつの技術はすげーんです。それは大魔王どのも分かるでしょ?」
「ああ。俺が出会った職人の中でもっとも腕が立つ」
「そうなんすよ。だからほんと、勿体ない話なんです」
メーガスは肩を落として言う。
アレンもそれには同意見だ。
(結局のところ、岩人族の異物だというのが劣等感なんだろうな)
いくら里を出たとしても、迫害されていた過去が消えるわけではない。
シャーロットは過去に立ち向かい、精算を終えた。マリオンにはそれがないのだ。
「ふむ……それがあいつのスランプ脱却の鍵となるかもしれんな」
「スランプを脱却したとしても、マナダイヤがないとあんたらの指輪はできませんけどね」
「分かっているわ。ええい、魔法でぶっ飛ばせる問題ばかりなら楽なものを」
アレンはがしがしと頭をかく。暗殺者集団を一網打尽にしたり、向かってくる学生たちをノックアウトしたりといった気楽なイベント(当社比)が恋しくなった。
小さくため息をこぼしたあと、メーガスをばしっと叩く。
「こうしていても仕方ない。今日も昼飯を食べたら採掘に行くぞ」
「俺は今からでもいいっすよ? どうせ暇ですし」
「それでもいいが、ナタリアたちが戻らんことにはなあ」
子供たちが心配なのもあるが、シャーロットとマリオンのふたりだけにするわけにはいかなかった。岩人族たちの接触があるかもしれないからだ。
あれからも岩人族らはアレンたちを遠巻きに監視していた。
族長ダロスの命令があるおかげか、積極的に接触を図る様子はないが……警戒するに越したことはないだろう。
「む。噂をすればなんとやらだな」
そんな話をしているうちに、外からいくつもの声が聞こえてくる。
何の気なしに外へと向かい――。
「早かったな、おまえた――」
「パパ上ええええええええええ!」
「たすけてくださいいいいいい!」
「とっ、溶かされるううううう!」
「……は?」
アレンは目を丸くする羽目になった。
「あれ、ナタリアたちもう戻って……ひえええええええ!?」
後ろからひょっこり覗いたシャーロットが、あまりの光景に悲鳴を上げる。
こちらに爆走してくるのはルゥの背に乗ったナタリアとリディ。そして小型の岩人族が三体。全員漏れなく涙目で顔面蒼白なその一団を、粘液まみれの棘付き触手の塊が追いかけていた。
森林でごくまれに見かける魔物、デス・アイビーである。
植物系の魔物で、捕らえた獲物を溶解液で溶かしてそれを養分とする。植物のくせに機動力があって、手こずる冒険者も多い。おまけにこれはかなり育った大物だ。
とはいえアレンの敵ではなく――。
「えー……《火炎華》」
「ピギャーーーーーーッッ!?」
ひとまず火炎魔法で炙ってみれば、甲高い断末魔が響き渡った。
◇
騒動が収まったあと、窮地を脱したお子様たちはキャンプ場の真ん中で一息をついていた。
リディはタオルで汗を拭ってため息をこぼす。
「ふう。たすかったのじゃ……おぬしらも無事か」
「お、おう……なんとかな」
それにぎこちなくうなずくのは岩人族らだ。
里を訪れた際、遊ぶ姿を見たことがある。声も少し高めだし、やはり子供たちらしい。
彼らはそわそわと落ち着きなく、どこか恐縮しきっている。
「ごめんなさい。助けてもらった上に面倒を見てもらって……」
「気にしないでください。みなさん無事でよかったです」
シャーロットがにっこりと笑って、岩人族の子供らにタオルと水を渡していく。
どうやら虹の根本を探しに行ったのはリディたちだけではなかったらしい。
岩人族の子供らも同じように冒険に出かけ、両グループとも魔物に襲われて命からがらここまで逃げてきたという。
あのあと戻ってきたゴウセツが深々と頭を下げる。
『申し訳ございません。他の個体を追い払っているうちにはぐれてしまいまして』
「いや、あれくらいならナタリアもリディも倒せただろうに」
「無茶を言わないでください! あんなグロい魔物は初めて見たんですよ!?」
「そうじゃそうじゃ! パパ上と違って、わらわたちは繊細なのじゃぞ!」
ナタリアとリディは猛抗議する。
ルゥもしょんぼりして、へにゃっと耳を垂らして伏せてしまう。
『うん……ルゥもあれはちょっとだめだった……』
「たしかに刺激強めの魔物さんでしたね……あれ? でも、さっきまであそこに転がっていた魔物さんはどこに……」
「ああ、ちゃんと処理したぞ」
「処理……?」
軽く言うアレンに、シャーロットが小首をかしげる。
そんな話をしているうちに岩人族らも少しは落ち着いたらしい。どこか恐る恐るといった様子でアレンに声を掛けてくる。
「なあなあ、あんたがアレンか? 族長が関わるなって言ってた人間だよね」
「ああそうだ。思いっきり接触してしまったな」
「あれは仕方なかったし……バレなきゃいいんだよ!」
「バレたら絶対怒られちゃうよ……」
「やだなあ……」
あとの岩人族らは戸惑い気味だ。
そんな三人にアレンは人差し指を口元にあてていたずらっぽく言う。
「安心しろ。俺たちが他言しなければバレはしない。ここで会ったのは秘密だ」
「アレン……ありがとう! あんた案外いい奴なんだな!」
「ふはは、そうだろ…………『案外』?」
高笑いを上げかけるが、引っかかりを覚えて眉を寄せる。
岩人族の子供らはうなずき合って口々に言う。
「うん。やられた大人たちが『あいつの戦い方は性格が悪い』って言ってた」
「僕たち人間の見分けは難しいけど、あんたが悪人顔なのは分かるよ」
「おもってたよりわるそうで、ちょっとビックリした!」
「そうかそうか。おまえたち……そんなに告げ口されたいのか?」
「「「ごめんなさい」」」
子供らは揃って頭を下げた。素直さは美徳だ。
(他種族でも悪人顔と判断するのか、俺の顔は……)
自覚しているものの、ちょっと限度がある気がする。
続きはまた来週。
本日はアニメ七話の放送日です。ルゥがしゃべってドロテア登場!お楽しみに!





