二十一話 いざ、街へ!①
そういうわけで、三人は街にやってきた。
「どういうわけですかぁ!?」
「なんだ、なにが不満なんだ」
裏返った悲鳴を上げるシャーロットに、アレンは小首をかしげる。
ここはアレンの暮らす屋敷からほど近い街だ。そこそこ広く、近くに手頃なダンジョンが何箇所かあるため、人の出入りも多い。ミアハの所属する運送会社の本社も、この街に存在している。
昼を少し過ぎた時間帯ということもあって、大通りはごった返していた。
そんな片隅で、シャーロットは建物の陰に隠れてビクビクしている。
頭には屋敷から持ち出した布切れを被っていて、かなりの挙動不審だ。
エルーカも肩をすくめて彼女に告げる。
「だって、あたしとおにいのどっちがシャーロットちゃんを喜ばせられるかって勝負だし。あんな陰気な屋敷じゃ、できることなんて限られるでしょ」
「買い出しがてら、ちょうどいいだろう。お前もたまには外の空気を吸った方がいいしな」
「でも、私はその……お尋ね者なんですよ!?」
シャーロットはきょろきょろと辺りを見回す。
ちょうど折の悪いことに、街の掲示板にはいくつもの手配書が貼り付けられていた。
その中に真新しいものが一枚あって……あれは間違いなく、シャーロットのものだ。
「出て行ったら、絶対に捕まっちゃいますよぉ……そ、そんなの嫌です……アレンさんや、エルーカさんに、ご迷惑がかかっちゃいますよぉ……」
「この期に及んで他人の心配か。お前らしいな」
ぐすぐす鼻を鳴らすシャーロットに、アレンは苦笑する。ハンカチを貸してやりながら、なるべく優しい声で語りかける。
「大丈夫だ。心配いらない。俺に任せておけ」
シャーロットの髪にそっと触れ、ぱちんと指を鳴らす。
「《転姿》」
「ひゃっ」
淡い光がシャーロットの髪を包み、すぐに消えた。
手鏡を渡せば、シャーロットはすぐに目を丸くする。
「か、髪が……! 黒くなってます!」
「うむ。簡単な変装魔法だ」
シャーロットの美しい金の髪は、夜闇のような漆黒に染まっていた。
自分の姿が物珍しいのか、シャーロットはまじまじと鏡の中を凝視する。
「これで髪型を変えれば、そうそうお前の正体はバレないだろう。俺たちも注意してやるから安心しろ」
「あ、ありがとうございます……」
「ふふーん、アレンジはあたしに任せてよね!」
エルーカはシャーロットに飛びついて、長い髪を好き勝手にいじり始める。
「うんうん、よく似合ってるよ! 黒髪だし、あたしとお揃いだね!」
「は、はい。アレンさんとも……半分お揃いですね」
「まあな」
照れたようにはにかむシャーロットに、アレンは肩をすくめてみせた。
そのついでに彼女の黒髪をじーっと見つめる。我ながらいい腕だ。艶もあるし枝毛もない。綺麗な黒髪だが……。
「だが、家に帰ったらすぐその魔法を解くぞ」
「えっ、そ、そうですか……」
「えー! なんで! 黒髪もいいじゃんか!」
ぶーぶー、とエルーカがブーイングを上げる。
シャーロットも心なしかしゅんとしてしまう。
だが、アレンは断固として曲げなかった。
「黒も悪くないが、やはりシャーロットに似合うのは金色だ。俺はあっちが一番好きだ」
「は…………」
なぜかシャーロットは言葉を失い、凍りつく。エルーカも目を丸くして黙り込んでしまうし。
おかげでアレンは首をひねるしかない。
「む? 何かおかしなことを言ったか?」
「…………い、いえ。なんでもないです……」
「ちょっと、おにい。もう点数稼ぎ?」
顔を真っ赤にしてシャーロットはうつむいてしまう。
エルーカはじと目を向けながらも、手早く彼女の髪をまとめ上げた。そうしてシャーロットの手を取ってにっこり笑う。
「よし、髪はこれで完成。あたしもおにいに負けてらんないね。全力で女にしかできないイケナイことを教えこんであげるんだから!」
「お、女の子にしかできないイケナイことって……なんですか?」
「ふっふーん、そんなの決まってるでしょ」
エルーカはニヤリと笑って――堂々と言ってのける。
「もちろん、オシャレに決まってるわ! お洋服やらアクセサリーやら、たくさん見繕ってあげるんだから! さ、行こ!」
「あわわ! 待ってください!」
「こら、走ると転ぶぞ」
手を繋いだまま駆け出すふたりを追って、アレンはやれやれと歩き出した。