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百九十八話 順当な提案②

前回までのあらすじ・プロポーズした。

「「「このタイミングでプロポーズ!?」」」

「うわ、なんだどうしたおまえたち」


 シャーロットを含む全員が悲鳴のような声を上げたので、アレンは珍しくびくりとした。   


 あっという間にミアハたち配送業者に取り囲まれる。全員が全員、亜人の女性であり、猫やらイヌやらキツネやらの耳と尻尾が生えていた。


 見た目はファンシーで和やかだが、もれなくみんな殺気全開である。

 限界いっぱいまで目を吊り上げながら、懇々と説教をかましてくる。


「クロフォード様。お得意様にこういったことを申し上げるのは非常に心苦しいのですが……今のはデリカシーに欠けると思いますわん」

「プロポーズは女性にとって人生一度の晴れ舞台。それをさらっと実行するなんて……ムードとかもっと考えませんでしたぴょん?」

「もしも彼氏があんな感じでプロポーズしてきたら、うっかり呪いかねませんこん」

「そ、そこまで言われるほどなのか!?」


 もう完全に女性の敵認定されているのが、ひしひしと肌で分かる。

 家族は家族でどこか遠巻きだ。


『正直、今のは儂も引きました』


 ゴウセツは呆れかえっているし――。


「む、なにか悪いのか? パパ上はママ上のことが大好きなだけでは?」

『ねー。いつもどおりだよねえ』


 唯一、リディとルゥのお子様コンビは首をかしげている。

 まさに袋だたきに等しいブーイングっぷりだった。


 アレンはうろたえて後ずさりしつつも、必死になって弁明する。


「待ってくれ、俺は何も荒唐無稽な戯れ言をほざいたわけじゃない。今の申し出にはちゃんとした理由があるんだ」

『それでは代表して儂がうかがいましょう。どうぞ?』

「今現在、シャーロットはクロフォード家で保護していることになっている。だがしかし、身分としてはニールズ王国の公爵令嬢だ」


 シャーロットは一度は国際手配までされた身だが、その汚名は無事に返上できた。

 それゆえ身分も元通り、あの国の貴族だ。

 向こうの国が正式なルートを通じて身柄の引き渡しを申し出てくると、非常に面倒なことになる。最悪国際問題だ。


「だが、正式に俺と籍を入れて家名を捨ててしまえば、シャーロットはこちら側の人間となる」


 そうなれば向こうもおいそれと手が出せなくなる。

 また、何かあった場合には表立って報復しやすい。

 つまり利点しかないのである。


「そ、そういう理由での申し出だったんだ……が」

『なるほど、よーく理解いたしました。国同士のいざこざにまで発展すると、シャーロット様の平和な暮らしが脅かされますしな。アレン殿の考えは一理あるでしょう』


 ゴウセツはふむふむと頷く。

 魔物ではあるものの、長く生きているおかげか人間同士のしがらみに理解が深い。


「ふう。おまえは分かってくれたか」

『ええ。ですが……』


 アレンはほっと胸をなで下ろすのだが、その途端にゴウセツが後ろ足だけで立ち上がった。ただでさえ巨大な図体をしているので、そうするとあっさりアレンの背を上回る。


 目をかっぴらいてアレンを睨め付けながら、ゴウセツは地の底から響くようなおどろおどろしい声で告げる。


『それは、我が主へ場当たり的にプロポーズした理由にはなりませぬ』

「うぐっ……!?」


 痛いところを突かれた。

 ぐらっとよろめいたところに、ますますゴウセツが顔を近付けて凄んでくるし。


『夫婦というのは地獄の果てまで寄り添い合うという、覚悟を示す契約でございます。それをなんでございましょうかね、貴殿は我が主君を軽んじていらっしゃるので?』

「バカを言え! そんなことはない! というか貴様こそシャーロットの何なんだ!?」

『かぴっ!?』


 世迷い言をばしっと斬り捨てるついで、圧をかけてくる巨体を足払いして地面に転がす。

 ころんと腹を見せるゴウセツに、アレンは堂々と胸を張って宣言した。


「俺は人生を賭けてシャーロットを幸せにすると決めた! 今の言葉も、心からの覚悟の表れだ!」


 あの夕焼けに染まる花畑で『好きだ』と告白した。

 そのときから――いや、もっと言えば出会ったときから生涯かけて守ると誓っている。


「だから告白した時点で、もうプロポーズも同時にしたつもりだったというか、なんというか……」


 しかしその宣言は尻すぼみとなった。

 さすがに『もしかして俺はひとりで突っ走ってしまったのでは……?』と気付いてしまったので。


「「「はあ……」」」


 それに、お子様を除く全員が生返事をした。へたに罵られるより効いた。

 配達員たちは顔を見合わせてこそこそと審議を始める。


「どう思いますわん?」

「判定に迷いますぴょんねー。一途と言えば一途だし、間抜けといえば間抜けだぴょん」

「でもやっぱり、わたしだったら呪ってますこん。三等親くらいまるっとひっくるめて」

「まあまあ、みなさん。こういうのは当人様のお気持ちが一番大事ですにゃ」


 そこに割り込んだのがミアハだった。

 のほほんとした笑みを浮かべて同僚らを宥めつつ、ちらりと視線を向ける。


「シャーロットさんはどうお考えで?」

「へっ……!?」


 シャーロットの肩がびくりと跳ねた。

 アレンが結婚を申し込んでからずっと、真っ赤な顔をしたままぽーっと立ち尽くしていたのだ。どうやら周囲のざわめきがまるで聞こえていなかったらしい。


 注目を集めていることに気付いたのかハッとして顔を伏せ、ぽつぽつと言葉を紡ぐ。


「え、えっと、その、アレンさんのお気持ちはとっても嬉しいんですけど……」


 そこでわずかに目線を上げて、アレンを不安そうに見やる。


「私でいいんですか……?」

「おまえ以外にありえない!」


 それにアレンは力強く断言した。

 シャーロットの手を握りしめてから、またまっすぐに続ける。


「こんなタイミングだし、打算で申し出たように思ったかもしれない。その点は申し訳ない。心から詫びよう。だからその……改めて言わせてくれ」


 シャーロットの顔を覗き込めば、相変わらず真っ赤に染まっている。それでも青い瞳はいつも以上にきらめいていて、いつまでも見つめていたくなった。

 その誘惑を振り払い、アレンは大きく息を吸い込んでから、肺を空にする勢いで告げる。


「俺と結婚してくれ。一生俺の隣にいてほしい」

「は、はううう……」


 その途端、シャーロットの頭からぷしゅーっと湯気が立った。キャパオーバーもいいところらしい。

 しばしぱくぱくと口を開閉させるばかりではあったが、じっと待っているとやがて蚊の鳴くような声を絞り出す。


「あ、あの、え、えっと……ふ、ふつつかものですが……よろしくおねがい、しましゅ!」

「よっしゃあ!」

「へっ!? ひゃわわ……!?」


 最後で噛んだシャーロットを抱き上げて、アレンは勢いのままにくるくると回った。

 天にも昇る心地とはまさにこのこと。告白を受け入れてもらったとき以上の多幸感が後から後から溢れてきた。

 目を瞬かせるシャーロットを地面に下ろしてから、ガバッと頭を下げる。


「ありがとう、シャーロット! 絶対に、今以上に幸せにしてみせるからな!」

「は、はい……」


 シャーロットは戸惑いがちにはにかんでみせた。

 どこかぎこちないその姿に、自分とのテンションの差を感じ、アレンは『また俺ひとり突っ走ったのか!?』と一瞬不安になるものの――シャーロットはほんのり頬を桃色に染めて、こう続けた。


「私もその、いい奥さんになれるよう、がんばりま……アレンさん!?」


 どばたーーーーん!!

 アレンは膝から崩れ落ち、顔面を地面に強打した。

 そのせいで血相を変えたシャーロットが慌てて揺り起こしてくる。


「大丈夫ですかアレンさん!? 突然どうしたんですか!?」

「い、いや……あまりの破壊力に意識が飛んだだけだ……お、奥さんか……ぐはっ」

「アレンさーん!?」


 自分で蒸し返して、さらなるダメージを負って心臓が止まった。

 奥さん。そのありふれた単語は、いざ己の身に当てはめてみるとすさまじい響きを有していた。


 アレンを膝枕して介抱するシャーロットをじーっと見つめ、ゴウセツは諦めたようにかぶりを振った。


『シャーロット様がご納得であれば、儂もとやかく言いますまい』

「ま、おふたりらしいですにゃー」

「シャーロット様、旦那様を呪いたくなったらいつでも相談に乗りますこん!」


 他の外野も好き勝手な感想を投げてくるものの、おおむね祝福ムードだ。

 そんなほのぼのとした空気を切り裂く者がいた。


「話は聞かせてもらったよ、おにい!」

「うわっ」


 大声を上げて参上したのはエルーカだ。

 人差し指を突きつけてポーズを決める義妹に、アレンもすこし平静さを取り戻した。ひとまず起き上がって用件を尋ねてみる。


「いったい何の用だ、エルーカ」

「もちろん遊びにきたんだけど……それはひとまず二の次だよね!」


 エルーカは興奮気味に両手をぶんぶん振って近付いてきて、アレンとシャーロットのふたりにがばっと抱き付いた。


「婚約おめでとう、おにいにシャーロットちゃん! お幸せにね!」

「……ああ、感謝する」


 それにアレンは小さくうなずいた。

 思えばエルーカがカス王子の調査などで手を貸してくれたおかげで、ここまでたどり着くことができたのだ。

 シャーロットも同じ思いなのか、感極まったように鼻を啜る。


「ありがとうございます……エルーカさんには本当にお世話になりました」

「堅苦しいことは言いっこなしよ、だってもう義理の姉妹でしょ」


 エルーカはばちんとウィンクを決めてみせる。

 そうかと思えば、真剣な顔をアレンに向けた。


「そうと決まったら……おにい! これからやるべきことは分かってるよね?」

「うむ、そうだな。色々と煩雑な手続きが必要になるだろう」


 シャーロットの身分はニールズ王国の貴族令嬢だ。結婚するとなると、色々と準備する必要があるだろう。また、隣国へのプレッシャーをかけるべく、ある程度大々的な告知も必須だ。

 そう、指折り数えてみるのだが――。


「そんなことはどうでもいいんだよ、バカぁ!」

「ぐはっ!?」

「アレンさん!?」


 何故か義妹からグーパンチを頂戴した。

 しっかりまっすぐ顎にヒットしたため、脳しんとうを起こしてまた地面に転がる。物思いにふけって完全に油断していたのでクリーンヒットとなったのだ。


「い、いたた……突然何をするんだ!?」

「バカだね、おにい。ほんっと大バカ。そんな手続きなんてあたしがやるっての。おにいがやるべきことなんて決まってるでしょ」


 エルーカはそんな兄へと侮蔑の目を向ける。

 びしっと人差し指を突きつけて、鬼の形相で言い放つことには――。


「盛大な結婚式の準備! これに尽きるでしょーが!」

「はあ……た、たしかにそれは必要かもしれないが」


 結婚するのだから式を挙げる。

 いたって真っ当な展開だ。


 しかし、アレンには何故そこまでエルーカがヒートアップするのかが分からなかった。

 しょせんは家族や知人に向けて、夫婦になることを誓うだけの儀式だ。


「そんなに結婚式とは大事なことか……? 俺とシャーロットが相思相愛なのは、もう全員知っているだろうに……」

「大事に決まってるでしょ。想像してみなよ、おにい。シャーロットちゃんと自分が式を挙げるところをさ」

「はあ……」


 言われるままに、これまで参列した他人の結婚式を思い出して我が身に当てはめてみる。

 しんと静まり返った教会の中、白いタキシードで着飾る自分。

 これにはまっっっったく心を動かされなかった。動きづらそうだなあという感想しかない。


 しかし想像の中で視線を横にずらした途端。


「ぐぶっふ……!?」

「アレンさん!? またですか!?」


 アレンは血を吐いてぶっ倒れた。

 何度も何度も地面に転がったせいで、もうあちこち土埃まみれだ。それでもシャーロットは今回もまたアレンを案じて顔を覗き込んでくる。


「今度はいったいどうしたんですか……?」

「想像したんだ……俺たちの式を、いや……!」


 そんなシャーロットの手をがしっと掴む。

 万感の思いを込めて叫ぶのは――。


「おまえのウェディングドレス姿を想像したら……死にそうなくらい綺麗だったんだ!」

「え…………ええええっ!?」


 シャーロットは一瞬だけぽかんとして、それからすっとんきょうな悲鳴を上げた。


 想像の結婚式で、シャーロットはフリルとレースがたっぷりとあしらわれた純白のドレスをまとっていた。

 頭には小さなティアラを飾り、薄いヴェールをそっと持ち上げれば、薄化粧を施したシャーロットがにっこりと微笑んでくれて――それで吐血したのだ。


 エルーカはドヤ顔でちっちと指を振る。


「甘いね、おにい。実際はその何百、何千倍って綺麗で可愛いんだよ。そんなシャーロットちゃんを見たいと思わない?」

「見たい……! ほぼ確実に俺の命は絶たれるだろうが、それでも見たい!」

「そのためにはとびっきり豪華で素敵な式にしないと! じゃないとシャーロットちゃんに釣り合わないでしょ」

「なるほど、一理ある……! 命を投げ出してでも完遂すべきだな!」

「そ、そうですか……? あと、アレンさんはもう少しお体を大事にした方が……」


 シャーロットがおずおずとツッコミを入れるが、メラメラと燃えるアレンには通じなかった。

 たしかにこれ以上の重要事項は存在しなかった。隣国へのプレッシャーだとか何だとかは二の次である。

 アレンは口の端に滲む血を拭い、立ち上がってニヒルに笑う。


「俺の目的はシャーロットを世界一幸せにすること……そのためには世界一の結婚式を挙げる必要がある。俺としたことが、初心を忘れていたようだ。感謝するぞ、エルーカ!」

「そうでしょそうでしょ。とりあえず、まずは式場探しだよね! いいところをピックアップしてあげるから、ふたりで見学に行ってきなさい!」

「おおっ、そういうことならミアハもご協力しますにゃ。うちの会社、あちこちにパイプがありますからにゃー。結婚式場もきっと当てがありますにゃ!」

「助かるぞ、ミアハ! 協力金は弾ませてもらおう!」

「へ、え……え?」


 あっという間に話が進んでいくのを、シャーロットは目を瞬かせて見守った。

 


 それから三日後のこと。


「よし、着いたぞ!」

「わあ……大きな街ですねえ」


 アレンとシャーロットはふたりっきりで、とある街を訪れていた。

 真っ白な建物が建ち並ぶ海沿いの街だ。規模はかなり大きくて、様々な種族が行き交う。

 その街の入り口には、こんな看板が立てられていた。

 祝福の街――マリッジ・ゲート。結婚式場を多く擁する観光地だ。

久々の更新……!遅くなってしまい申し訳ございません。

秋口から年始にかけて体調を崩しておりました。以降も不定期更新になりますが……のんびりお待ちください!


本日はコミカライズ四巻の発売日となります。

さめもSSを書き下ろしているので、ぜひともよろしくお願いします!アレンが思いを自覚するあたりが収録されています!

また、夏に出る五巻と連動企画でアクリルスタンドが当たるキャンペーンも!詳しくは活動報告にて。

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コミカライズ十巻発売!
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― 新着の感想 ―
[良い点] おひさー そっか婚約決定かぁ~ 「ちょっとまったぁ~!」てな人は出てこないんかw [気になる点] 科学要塞結婚式場 なぜかこの単語が頭の中に出てきたw [一言] アレン  結婚式の最中に…
[良い点] 砂糖を飲まされているのか、自分で砂糖をはいているのかわからなくなってきました。 [一言] とにかくご自愛くださいませ。 読者に砂糖吐かせる先生よりも健康的な先生をお待ちしております。
[良い点] 更新ありがとうございます! [一言] 結婚式からの流れで、幸せになる為の街から教会…果てはその教会の神様まで作ってしまわないかハラハラして見てました
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