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百八十八話 世界中に知らしめる

(6/18 追記)

イケナイ教コミカライズが、次にくるマンガ大賞にノミネートされました!

詳しくはページ下部へ。ぜひぜひご投票を!

 無視できる空気でもなく、アレンは彼女の方を嫌々ながらに振り返る。


「何の用だ、ドロテア。今は取り込み中で――」

「はい、これ。さっき書き上げたばかりで出来立てほやほやのボクの新刊っす!」

「どんな製本技術だ!?」


 おもわず邪険にするのを忘れてツッコミを入れてしまった。

 勢いで受け取った本は、しっかりした装丁の一冊だった。しかも分厚い。表紙にはやはり、白黒髪の魔法使いと金髪の少女が寄り添う姿が描かれている。


「これ、つまりまた俺たちの話なのか……?」

「そーっすよ。だって書いていいって言われたし」

「原稿を燃やしそびれた……」


 悪びれることもなく言い放つドロテアに、アレンはがっくりと肩を落とす。

 また全世界に自分たちの恋模様が頒布されてしまう。


「……とりあえずシャーロット、持っててくれ」

「は、はい……ど、どんな内容なんでしょう……」


 本を手渡せば、シャーロットは頬を染めつつも興味津々といった様子でぱらっと表紙をめくる。その瞬間ぽっと頭から湯気が出て、頬の赤みがさらに増した。


 前回の本は、開幕キスシーンだった。

 それを踏まえて考えると――。


(またろくでもない内容なんだろうなあ……)


 アレンはそんな確信を持て余して、盛大なため息を吐くしかない。

 そこで瓦礫を運んでいたメーガスがすっとんきょうな声を上げた。


「ああっ! ドロテア先生だ!? 新刊読みましたよ! やっぱあの小説って、大魔王どのがモデルなんですか!?」

「あはは、そうっすよー。岩人族の男性がボクの小説を読んでくれてるなんてちょっと意外っすね」

「いやあ、俺のいも……家族が好きで。よかったらサインもらえませんか?」

「いいっすよー! ボクってば心の広い人気者っすから!」

「あっ、俺も俺も! お願いします!」


 他にも著作を読んでいたらしい面々が集まってきてわいわいと騒ぐ。

 場の空気は完全に和やかなものになってしまった。

 騒ぐドロテアたちに、アレンは目をつり上げてしっしと手を振る。


「ええいシリアスな空気が霧散する……! いいから貴様は消えろ! 今俺たちは大事な大局を迎えているところなんだ!」

「ええー、ボクもしっかりお役に立ったっすのに! 感謝の言葉があってもいいんじゃないっすか!?」

「あの隠密魔法道具は後でちゃんと返す! だから今は――」

「いやいや、そっちはどーでもいいんすよ」


 ドロテアはぱたぱたと手を振って、虚空から先ほどと同じ本を取り出してみせる。


「ボクが言ってるのは今回の新作っす。シャーロット氏の無実を晴らしたわけっすから」

「はあ……? おまえの三文小説が何の役に立つと言うんだ」

「あ、あれ? あれれ?」


 首をかしげるアレンの隣で、シャーロットが目を瞬かせた。

 先ほどの本をゆっくりとめくってから、ごくりと喉を鳴らす。


「ドロテアさん、これ……ほんとに私たちのことを書いたんですね」

「そーっすよ、だってアレン氏から許可が出ましたから。何でも書いていいって!」

「たしかに言ったが…………まさか!」


 鮮烈な予感にハッとして、アレンはドロテアから本を奪う。

 そうして勢いよくページをめくっていった。合間に挟まる男女のイラストはスルーして、文章だけを追っていく。見知った単語がいくつも出てきた。


 ニールズ王国。

 第二王子セシル。

 エヴァンズ家。

 継母コーデリア。

 エトセトラ、エトセトラ……。


「おまえ……馬鹿王子の陰謀劇を、実名そのままで書いたのか!?」

「だって書いていいって言われたしー」

「……は?」


 何とか縄をほどこうともがいていたセシルが、その瞬間に凍り付く。

 猿轡をかまされて呻いていたコーデリアも同様の反応だった。

 エルーカとナタリアも本をのぞき込んで「うわっ」と声を上げる。


「ご丁寧にノンフィクションって書いてるし……恋愛小説兼告発本じゃん、これ」

「忖度というものが一切感じられません。ドロテアさん、いい仕事をなさいましたね」

「ふっふーん、こういうテイストもたまには悪くないかと思いましてね。ちなみに今日から全世界に配本されるっすよ!」

「なっ、あ……!?」


 セシルはますます青ざめるのだが、気を取り直すようにして不恰好な笑みを浮かべてみせる。


「い、いや……そんな下らない書籍など、出回る数は知れている。どうせ何の影響力もないはずで――」

「一応初版百万冊っすね。ニールズ王国の書店にもばんばん並ぶと思うっすよ。庶民も貴族もみーんな新作を楽しみにしてくれてるらしくって、感想が楽しみっす!」

「馬鹿な!? おいそこのエルフ! うちの国を敵に回す気か!?」

「別に人間の国なんか怖くも何ともないっすからねえ。どーせボクの寿命が来るより先に潰れるじゃないっすか。訴訟もどーぞご勝手に? 本を読んだ一般市民がどう思うかは知らねーっすけどね、わはは!」

「ぐっ、うううう……!?」


 からから笑うドロテアに、セシルの顔は赤くなったり青くなったりする。

 コーデリアも冷や汗をだらだら流して目を泳がせていた。

 そんな中、アレンはぱたんと本を閉じて肝心のことを尋ねる。


「つまり今日中に……世界中がシャーロットの無実を知ることになるのか?」

「そっすねー」

「ええ……そんな、軽く……えええ」


 シャーロットも戸惑い気味である。

 ここからまた戦うつもりで闘志を燃やしていたというのに、肩透かしを食らってしまった。

 ともかくアレンはシャーロットへ頭を下げる。


「すまん。俺の手で全部どうにかしたかったんだが……勝手に大団円になってしまったようだ」

「い、いえ。これもアレンさんが繋いでくださったご縁ですから」


 シャーロットは慌てて首を横に振る。

 アレンの手を取ってぎゅっと握りしめ、にっこりと笑ってくれた。


「ありがとうございます、アレンさん。私と出会ってくれて」

「……ああ」


 先日の誕生日でも言われた台詞。

 それがアレンの胸にじんわりとしたぬくもりを与えてくれた。

 ふたりが手を取り合って見つめ合う真横で、セシルが戦慄き声を絞り出す。


「ええい! この程度のことで俺の地位が失われるものか! そこの魔法使い! 覚えてげぶっほぉっ!?」

「アレンさん!?」


 もう色々と面倒になってしまい、アレンはとりあえずセシルのことをぶん殴った。

 死なないようきちんと手加減したものの、これまで溜めに溜めていた鬱憤を晴らすには十分な一発となった。セシルも気絶して静かになったし一石二鳥だ。


 ふうと息を吐いてから、アレンはふと気付く。

 例の本をわいわいと回し読みする面々の中に、とある姿が見えないことに。


「おや……? そういえばリディのやつはどうしたんだ?」

続きは来週木曜更新予定!次回で本章ラストになります。

本日はコミカライズも更新されております!アレンVSフェンリル母さん!迫力満点のシーンをぜひぜひご覧ください!


そして明日はちょっとした告知が。詳しくは明日の活動報告に!

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コミカライズ十巻発売!
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― 新着の感想 ―
[良い点] シャーロットちゃんおめでとう泣泣泣 [一言] 時の流れに任せて有耶無耶にしようとしても、作家本人が生きてるので無理なのですね! サイコーだと思います!!
[良い点] なんか止めを刺す前に終わってしまったw これでいいのだ! [一言] どこいったんでしょうねえ・・・
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