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十八話 嵐を呼ぶ闖入者①

 ある小春日和の日。

 アレンの屋敷を遠くから(にら)み、仁王立(におうだ)ちする人影があった。


「あそこ……か」


 人影はしばしじっと屋敷を見つめていたが、やがて意を決したように歩き始める。

 その眼差しはギラつく光を帯びていたが……当然ながら、森にほかの人影はなく、それを気に留めるものは誰もいなかった。





 ちょうどそのころ。


「よし、シャーロット! 問題だ!」

「は、はい?」


 昼食を取っていたところ、アレンが突然そんなことを言い出した。

 おかげでシャーロットはサンドイッチを持ったまま、きょとんと目を丸くする。


 今日のお昼は簡単なサンドイッチだ。パンと具を切って挟めば、それなりの見栄えになるお手軽料理。

 もともとアレンは食事にこだわりがない性分であったが、シャーロットが来てからは栄養面だけでなく見栄えも多少は気にするようになっていた。


 アレンは両手にふたつのポットを掲げている。

 片方はコーヒー、もう片方は紅茶だ。 


「コーヒーと紅茶、どっちが好きだ?」

「えっと、アレンさんと同じものを……」

「俺は特製のゲロマズ栄養ポーションをいただくが、本当に同じものでいいのか?」

「……お紅茶で」

「よろしい」

 

 シャーロットはじっくり悩んだ末にそう答えた。

 アレンは満足して紅茶の用意を始める。

 

「昨日言ったろう、素直になると。それにはまず、好きなものを自覚するところからだ」

「紅茶かコーヒーかを選んだだけですよ。大げさです」

「だが、これまではそんな自己主張もできなかったんだろう」

「それは……そうですけど」

 

 シャーロットはサンドイッチをちまちまとかじる。

 そうして、ふっと苦笑してみせた。

 

「たしかに、自分で何かを決めたのなんか……ここ何年かだと、あの家を出るって決めたことくらいです」

「家出の次がこれか! なかなか重大な決断続きだな!」

 

 アレンはくつくつと笑う。


「そのうちに趣味も作れるといいな。なにか挑戦したいことがあれば、なんでも言ってくれ」

「挑戦したいもの……ですか」


 シャーロットはサンドイッチをくわえたまま、ぼんやりと考え込む。その瞳が見ているものはアレンにはわからない。だからそっとしておこうと思った。


 ただ……この調子なら、物置に突っ込んだサンドバッグを引っ張り出す日も近いかもしれない。そんな予感を覚えた。

 

 しばしふたりは黙り込む。

 お湯が沸く音と、外から聞こえてくる鳥の囀りが調和して、静かな時間がゆっくりと過ぎていき――。


「やーっと見つけたぁ!」

「ひゃうっ!?」

「げっ」


 勢いよく扉が開かれて、突然の闖入者(ちんにゆうしや)が現れた。

 おかげでシャーロットが椅子に座ったまま飛び上がり、アレンは思いっきり顔をしかめた。


 現れたのは、シャーロットと同じくらいの年頃の少女だ。

 小柄ながらに、出るところは出て、引っ込むところは引っ込む抜群のプロポーション。大きな翡翠(ひすい)色の瞳は活力にあふれている。


 身にまとうのはアレンのものとよく似たローブだが、猫耳風のアレンジが加わっている。おまけに肩までの黒髪にはカラフルなメッシュが入り、胸元を大きく露出して下は超ミニなスカート。

 魔法使いというよりも、攻めたアーティストといった風貌である。


「はあ……こんな忙しいときに、よりにもよっての客人か」

 

 見知った顔を前にして、アレンはため息をこぼすしかない。紅茶のポットに茶葉をセットし、お湯を入れる。分量は突然のお客様の分も合わせて三人分だ。

 

「今後の参考のために聞かせてくれ。いったいどうやってここが分かったんだ」

「簡単よ。手紙に付着した花粉からこの地方を割り出して、変わり者の魔法使いがいないか、シラミ潰しに聞いて回ったの」

「ちっ……的確な知識と無駄な行動力のたまものか」


 次からはもっと上手くやろう。

 そんな決意を抱きつつ、アレンは紅茶を淹れていく。一方、シャーロットは目を丸くしたまま、おずおずと問いかけてきた。


「え、えっと……アレンさん、こちらの方は?」

「それはこっちのセリフなんだけど……でもいいわ。自己紹介といきましょうか」

 

 少女は胸を張って、堂々と名乗る。


「あたしの名前はエルーカ・クロフォード! おにいの妹よ!」

「妹さん!?」

「ああ。義理の、だがな」


 自分のティーカップに砂糖をどかどか入れながら、アレンはぼやく。

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