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百五十八話 ミアハの願いごと④

 それからコタツでのお茶会を経て、夕飯までご馳走になってしまった。

 最近めきめきと腕を上げつつあるシャーロットの料理を堪能して、またすこしコタツで談笑して……ミアハが帰るころには。とっぷり日が暮れていた。


「それではご馳走さまでしたにゃ!」

「かまわん。コタツとやらの礼もあるしな」


 玄関まで見送りに来てくれたアレンが鷹揚にうなずく。

 片付けはシャーロットたちに任せ、外まで出てきたのは彼だけだ。

 

 このあたりには他に民家もないし街道からも外れているため、虫の声や風の音しか聞こえない。

 静かな夜空のもと、アレンはごほんと咳払いする。


「その……ミアハ。すこし聞いてもいいだろうか」

「はい? なんでしょうかにゃ」

「おまえにも、兄弟がいるのか?」

「……どうしてそう思うのですにゃ?」

「シャーロットから妹の話を聞いて、すこし様子が変だっただろ。何かあったのではないかと思ってな」


 彼はすこし眉をひそめて、ぶっきら棒に言う。

 口調も表情もやや乱暴だが、痛いほどの憂慮が感じられた。


「答えにくいことならばかまわん。今の質問は忘れてくれ」

「いいえ。別にたいした話ではございませんにゃ」


 そんな彼に、ミアハはただゆっくりとかぶりを振った。

 これまでほとんど誰にも話したことのない身の上話。

 しかし今日は、相手が彼だったからこそ、自然と話してみる気になったのだ。


「ミアハには姉が……双子の姉がいるはずなんですにゃ」

「いる『はず』、とは?」

「ずーっと昔に生き別れになったきりですからにゃー。今はどこにいるのか、そもそも生きているのかどうかすら……」


 ミアハは苦笑し、頬をかく。


 彼女と姉は貧しい家に生まれ、生後まもなく孤児院に預けられた。

 そこで別々の家庭へ引き取られ……それ以来、姉とのつながりは途絶えたままだ。

 数年前に姉のもらわれた家を訪ねたものの、とうの昔に引っ越してしまっていて、今では手がかりはひとつもない。

 だがそれでも、ミアハは姉に再会することを諦めてはいなかった。

 

「ミアハはたくさんお金を貯めて、いつか姉さんを捜す旅に出るんですにゃ。それがミアハの野望なのですにゃ!」

「おまえが仕事熱心なのはそういう理由か」


 アレンは顎を撫でて、かすかな声で唸ってみせた。

 そうしてイタズラっぽい笑みを浮かべて言う。

 

「なら、シャーロットを見逃してもよかったのか。懸賞金がそれなりに出たはずだろうに」

「何をおっしゃいますやら、魔王さん。悪いことをして手にしたお金で姉さんを見つけても、ミアハは嬉しくもなんともないですにゃ」

「そうか。おまえはそういう奴だな」

 

 アレンはニッと笑ってみせる。

 ただただ納得がいったという反応に、ミアハはほんの少しだけ胸を撫で下ろす。

 へたな同情はもらいたくなかったからだ。だがしかし、その後で彼が続けて言い放った言葉に、目を丸くすることとなる。


「よし、それなら俺にも協力させてくれ」

「へ?」

「俺もそれなりに顔が利くし、アテナ魔法学院のツテもある。おまえの姉に関する手がかりのひとつやふたつ、見つけてみせようじゃないか」

「そ、それはありがたいのですが……いいのですかにゃ? 本当に雲を掴むような話ですにゃ」


 世界は広い。ミアハのような亜人種は人間以上の数を誇るし、そもそもまだ生きているかどうかもわからない。フローラが転生仲間を見つけたのと、また違った難しさがあるはずだ。

 ミアハがそう言うと、アレンは肩をすくめてみせる。


「別にたいした労力じゃないさ。おまえはその、馴染みの業者だし……」


 彼はそこでいったん言葉を切って、どこか明後日の方を見てぼそぼそと続けた。


「一応……俺の友人だろ」

「…………」

「おい、そこで黙るな。せめて何か言え。頼むから」


 ミアハの肩を掴んで凄むアレンだった。

 結局最後は締まらなかった。

 そんな彼にミアハはぽかんとしていたが……すぐにぷっ、と吹き出してしまう。


「あはは、あんなに引きこもりの人嫌いだった魔王さんがそんなことを言うなんて。ほんとに変わられましたにゃあ」

「ふん。余計なお世話だ。それで、どうなんだ。俺に任せるのかどうか」

「ええ、ええ。お言葉に甘えますにゃ。魔王さんがお友達なんて心強いですにゃ!」

「ふっ、そうだろう?」


 アレンもまた不敵な笑みを浮かべてみせる。

 半年前まではミアハとの世間話すら弾まなかったというのに、本当に変わったものだ。しみじみするミアハに、アレンは問う。


「それじゃ、まずは姉の名前を聞かせてもらえるか。ひとまず軽く当たってみよう」

「はいですにゃ。姉さんの名は――」


 ミアハが懐かしい名前を口にしようとした、そのときだ。


「こんなところにいたのかよ!?」

「む?」


 遠くの方から素っ頓狂な声が響き渡る。

 見れば、慌てた様子でグローが走ってくるところだった。

 首に巻いた大蛇もどこか落ち着きなく鎌首をもたげている。


「グロー? こんな時間に珍しいな。俺に何か用か」

「いや、用があるのはあんたじゃなくて……そっちの郵便屋のお嬢ちゃんだ」

「ミアハですかにゃ?」


 おもわずきょとんと自分を指さすミアハに、グローはうんうんとうなずいてみせる。

 ふたりの前で立ち止まり、一仕事終えたように肩で息をする。


「ほんっと街中あちこち探し回ったんだぞ。ダメ元で来てみて良かったぜ……」

「それはお手数をおかけしたようですが……何かございましたかにゃ?」

「ああ、大事件だ。ほら、俺ら三つ隣の町まで行っただろ。フローラの店に来たっていう客を探しにさ」

「はあ……それがなにか?」


 首をかしげるミアハ。

 そんな彼女に、グローはやけに真面目な顔で告げた。


「そこで探し出した客がよ……なんと、あんたそっくりだったんだ!」

「…………はい?」

「で、話を聞いてみたら『ミアハは私の生き別れの妹だ』なんて言い出して。今、黄金郷まで来てくれてるんだ。お姉さんもずーっとあんたのことを捜してたんだとよ」

 

 そこまで興奮気味にまくしたててから、グローは満足げに笑う。


「いやあ、こんな偶然もあるんだな。フローラの道楽商売もたまには役に……って、どうした、お嬢ちゃん」

「…………」

「…………うん、まあ、なんだ」


 無言で固まるミアハの肩を、アレンがぽんっと叩く。

 どこか気まずそうな、祝福するような、絶妙な表情で彼は言う。


「よかったな、感動の再会じゃないか」

「思ってたのとだいぶ違いますにゃ!?」


 こうしてフローラの店で、姉妹は無事に再会することとなった。

 その後は姉、マイアもこの街に定住し……ふたり仲良く飲み歩く姿が、よく目撃されるようになったという。

ミアハ番外編はこれにて終了。

次回は5/7(木)更新予定です。コミカライズも更新されます。書籍と合わせて、自宅待機のお供になれば幸いです。


それでは次章【シャーロット、グレる】、お楽しみに!

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コミカライズ十巻発売!
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― 新着の感想 ―
[良い点] 猫耳美少女ミアハちゃんがこたつ...だとっ!!しかもラーメンにつられて姉が見つかるって...猫耳美少女×2がこたつでぬくぬくするのを拝みたい...
[一言] お互いがお互いを探してた訳か 探し当てられた方はそんな感じになりますわな
[一言] シャーロットのあれやこれやを解決してその後にお姉さん探しかと思ったらこんなあっさりと見つかるとは...
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