百五十五話 ミアハの願いごと①
サテュロス運送社。
それはマグノリアシティにおいて、もっとも大きな郵送会社である。
所属する社員のほとんどは亜人で、みな配達の隙間時間を縫って、その他さまざまなバイトに精を出している。
本業に支障がなければ何をやってもいいという会社の方針があるので、冒険者稼業と掛け持ちしている者もいるくらいだ。
そしてそんな中でも、マグノリアシティ支部副支部長――ミアハ・バステトスはもっとも仕事熱心な社員として有名だった。
配達とバイトを複数掛け持ちし、臨時バイトもなんでもござれ。
そのくせ当人の生活は質素なもので、よほど貯蓄が趣味なのだろうと思われていたが――そこまでして彼女がお金を集める本当の理由について、周囲の誰も知らなかった。
「こんにちはですにゃー……あにゃ?」
その日の午後。ミアハは街の魔法道具屋――黄金郷を訪れていた。
大通りから外れた場所に建つ店だが、町一番の品揃えを誇る名店であり、商品の質もいいということもあって日々客足が絶えない。サテュロス運送社のお得意様のひとつである。
彼女はいつものように大量の荷物を抱えて店の扉を開いた。
しかし、そこできょとんと目を丸くしてしまう。
魔法道具屋・黄金郷は一見すると小さな民家だが、魔法で店内の空間を広げているため、ほぼ無限に商品棚がが続いている。
入ってすぐのところに店員用のカウンターがあって――今日はその前でおかしな会合が開催されていた。
年齢も種族もばらばらな面々が不思議なローテーブルを囲んで、まったりとお茶をすすっていたのだ。
ミアハが不思議そうに見ていると、そのうちのひとりが顔を上げてにこやかに手を振る。
「あらあら、ミアハちゃんじゃない。今日も配達ご苦労様~」
「こんにちはですにゃ、フローラさん」
この店の店主、魔女のフローラだ。
見た目は二十代半ばの褐色美女で、魔法道具屋の経営だけでなく、最近人気のラーメン店をあちこちにオープンさせるなど経営者としての手腕にも優れている。
ミアハは彼女のそばまで近付いて、また目を白黒させた。
「今日もまたいつもの会合で……あにゃ?」
「ああ……? って、郵便屋のお嬢ちゃんか」
「あら? ミアハちゃんとグローくん、お知り合いだったの?」
フローラの隣にいたのは、蛇使いのグローだった。
かつては街でもそれなりに悪評を轟かせていたチンピラだったが、アレンにボコボコにされて以来、それなりに真面目に暮らしている青年だ。
首に巻いたペットの大蛇も、今日はリラックスモードなのかゆったり目を閉じていた。
そんなグローの腕に抱きついて、フローラはピースしてみせる。
「グローくんも私たちの仲間なのよ。最近それが分かって引き入れたの!」
「ちっ……仲間になった覚えはねえっっての」
「へえー、意外なつながりもあったものですにゃあ」
魔女のフローラと、更生したとはいえチンピラ然とした見た目のグロー。その他の面々にも、一見すると何の共通点も見当たらない。しかしミアハはこの集会が何なのか知っていた。
顎を撫でてその場にいる十名ほどを見回し、感嘆の声をこぼす。
「ほんとにずいぶん増えたものですにゃあ。フローラさんの転生仲間も」
「しかもただの転生者じゃないわ。異世界の地球の、しかも日本人の転生者よ!」
「なんでそんな小さいくくりで、これだけの人数が集まるんだよ……」
げんなりとため息をこぼすグローだった。
転生者。つまり前世の記憶を持つ者のことである。
この世界において『転生』は特別珍しい現象でもなんでもない。
水やマナと同様に、魂も輪転を繰り返すことは昔から知られていた。
たいてい生まれ変わる際に前世の記憶は忘れてしまうが、時と場合によって鮮明に思い出すことがある。前世の財産に関する所有権を定めた法律なども、ごくごく当たり前に整備されているほどだった。
ただし、異世界からの転生となると数がぐっと少なくなる。
無数に存在すると言われる異世界――しかもその中でも同郷の魂ともなると、出会える確率は砂漠で一粒のダイヤを見つけ出すに等しい。
それをフローラはこれだけの数、集めてみせたのだ。
当人は胸を張り、得意げに笑う。
「ふっふっふー。これも私の執念が成せる技よね。故郷の話ができる人がほしかったのよ!」
「よかったですにゃあ、フローラさん。しかしグローさんも転生者だったんですにゃあ。そんなお話、全然聞いたことがなかったですにゃ」
「まあ、改まって言うことでもないからなあ……酒の席でもウケねえし」
ぶっきらぼうに言うグローである。
どこか歯切れの悪いその物言いに、ミアハは大いに興味を引かれた。ぐいぐいと迫って話を振ってみる。
「ちなみにちなみに、グローさんの前世はどんな御仁だったのですにゃ?」
「ああ? そりゃ普通の――」
「それが聞いてよ、ミアハちゃん! グローくんったら不良だったのに、ある日トラックに轢かれそうになった子供を庇って死んだんですって!」
「バカ! それは他言しない約束だろうが!?」
「まーたトラックですかにゃ。多いですにゃー」
にこにこするフローラと慌てるグロー。
そんなふたりに、ミアハは苦笑を返してみせる。
なぜか地球の日本からの転生者の死因――そのトップクラスに躍り出るのがトラックなる鉄の車らしかった。他の転生者メンバーもしみじみとした様子で口を開く。
「そーいやあたしもトラックだったなあ。ブラック企業勤めで疲れて、フラフラして……あのときの運転手さんには悪いことしちゃったなあ……」
「俺は電車だった。転んだ女子高生を助けようとしてなあ……」
「みんな外で死んでていいなあ……僕は生まれてからずっと病院だったからさ」
そんなふうにして、集まった面々は死因トークで盛り上がった。
前世に関してはみなそれなりに割り切っているらしく、もの悲しい空気は一切ないが、事情を知らない者が聞いたらさぞかしぎょっとしただろう。
ほのぼのとした面々を見回して――ミアハはふと小首をかしげる。ずっと気になっていたのだが、いまいち聞くタイミングを逃していたのだ。
「それにしても……皆さんが囲んでいるこの机はいったい何ですかにゃ」
全員が囲んでいるのは謎のローテーブルだった。
草を編み込んだ敷物の上に載せられていて、足と天板の間に分厚い毛布が挟まっている。そこにみな靴を脱いで上がって、足を突っ込んで座っているのだ。
目をまん丸にするミアハに、フローラはイタズラっぽく笑ってみせた。
「ふっふっふ、いいところに目を付けたわね。さすがはミアハちゃんだわ。これはね……コタツよ!」
「こたつ……ですにゃ?」
ミアハ番外編は全四話です。
続きはまた来週木曜日に更新します。
来週木曜日はコミカライズ三話も公開されます。
書籍と合わせて、ぜひぜひよろしくお願いします!本と漫画を読んでおうちに引きこもろう!





