百五十四話 姉妹をつなぐもの②
本日コミカライズ更新日!
主人公がヒロインを脅迫する回です。ぜひぜひご覧ください。
「なんかよくわかんねーけど……これって感動の再会ってやつ?」
「よかったなあ、ナタリアくん……!」
「いやあ、大団円ですねえ」
舎弟一同とニールが雰囲気に呑まれて涙を流す。ハーヴェイも微笑ましげに目を細めてみせた。
やがて泣き止んだナタリアが、涙に濡れた顔を上げる。
「でも、どうしてねえさまがここに……?」
「実は……」
それからシャーロットは経緯を説明すると、ナタリアが目を丸くしてアレンを見やった。
「ほ、本当ですか、アレン先生……先生が、ねえさまを助けてくれたんですか」
「なに、そんな大層なものじゃないさ」
アレンが肩をすくめると、ナタリアはしばしぽかんとして――改めて深々と頭を下げてみせた。
「ありがとうございます、アレン先生。あなたは……わたしたちの恩人です」
「……姉を監禁しているやつを八つ裂きにするんじゃなかったのか」
「まさか。ねえさまを見れば、あなたがどれだけねえさまを大切にしてくれたのか分かります。会わせてもいいのか、わたしを試していたのでしょう?」
ナタリアは苦笑してかぶりを振って、柔らかな笑顔を向けてみせた。
「あなたに会えてよかった。本当に、ありがとうございます」
「ナタリア……」
その真っ直ぐな言葉と笑顔に、アレンもまた柄にもなく胸を打たれて言葉を詰まらせてしまう。
姉妹が無事に再会できて、本当によかった。
じーんと感慨に浸るアレンだが……それも長くは続かなかった。
そこでシャーロットがハッとしたような顔をして、涙を拭ってみせる。
「そうだ。ナタリアにも、ちゃんとアレンさんを紹介しなきゃいけませんね」
アレンのことを示し、そのままにこやかに告げるのは――処刑宣言にも等しいものだった。
「こちらがアレンさんといって、私の恩人で……今は大切な人なんです」
「…………は?」
一瞬にして、ナタリアの顔からすべての感情が消え失せる。
その完全なる『無』の表情を見て、アレンの心臓はひゅっと縮み上がった。
(あっ。これはまずい。絶対にまずい)
確実な死の気配がすぐそばまで迫っていた。
アレンは慌ててシャーロットの言葉を遮ろうとするのだが――。
「しゃ、シャーロット。その話はまた今度の機会に……」
「いえ、聞かせていただきましょう。ねえさま、それはどういう意味ですか」
「えっ……それは、その……いろいろ、ありまして……」
シャーロットはぽっと頰を染めて、もじもじする。
かわいい。すごくかわいい。
しかしアレンは恋人のかわいさを存分に堪能することができなかった。シャーロットがもじもじしながら続けた言葉が、開戦ののろしとなったからだ。
「実は私……アレンさんと今、お付き合いをさせていただいていて――」
「貴様アアアアアアアアアア!!」
「へっ」
「うわっ!?」
ドゴオォオオオオンッッ!!
怒声と轟音は、ほぼ同時だった。
ナタリアが鬼のような形相でアレンに飛びかかり、攻撃魔法を同時に展開した。
魔力で編み上げた剣と槍を両手にかまえ、全身に強化魔法の光をまとって容赦なく振り下ろす。
その音速にも等しい斬撃を、アレンは瞬時に編み上げた魔法障壁で間一髪で受け止めた。冷や汗が背中を伝うのを感じながら、アレンは遠い目をして心中でぼやく。
(やっぱりこうなったかー……)
姉を一途に慕う妹。またの名を超ド級のシスコン。
そんな相手に『きみのお姉さんとお付き合いさせてもらっています』と挨拶してどうなるか、火を見るよりも明らかだった。
おまけに事情が事情なので、完全に下心全開で拾ったと見えてもおかしくない。そのせいか予想より殺気がすさまじかった。
障壁を挟んだ向こうで、ナタリアは目をつり上げ、地の底から響くような声を上げる。
「貴様ぁ……わたしのねえさまに何してくれとんじゃゴルァァァアアアア!? 最初からそれが目的で近付いたな!? 不潔! 変態! クズ野郎!!」
「待て待て待て誤解だ! 話せばわかる! 自分で言うのもなんだが、シャーロットとは相当清い交際をしていて――」
「つべこべ言うな! 貴様だけはこの場で殺す! 八つ裂きなど生温い! 肉片のひとつに至るまで殺して、殺して……殺し尽くしてしてくれるわぁあああああ!!」
「くそっ……! こうなったら俺も腹をくくろう! おまえを倒して……シャーロットとの交際を認めさせてやろうではないか!」
「上等じゃあこの腐れ陰険魔法使い! 貴様なんぞに大事なねえさまを渡せるか!!」
そのままふたりは衝突し、すさまじい剣戟の音と爆音があたり一帯に響き渡った。
「え……ええええ!? あ、アレンさん!? ナタリア!? どうしてですか!? 誰か!? 誰か止めてください!」
うろたえるシャーロットだが、その他の面々は渋い顔を見合わせる。
やがてハーヴェイが半笑いで口火を切った。
「いやあ……あれは好きなだけやらせた方がいいやつですよ」
「同感ですな。それよりシャーロット様は儂らと美味いものでも食べに行きましょうぞ」
「あはは、ゴウセツさんは話がわかりますねえ。では私の行きつけのレストランでもどうですか? 魚介類が絶品でして。リズちゃんやエルーカも呼んで、家族水入らずといきましょう」
『わーい! たまにはお魚もいいよねー』
「えっ、えっ……ほっといていいんですか!? ほんとに!?」
慌てふためくシャーロットを横目に、ナタリアの舎弟たちも半笑いで相談を始める。
「俺らはどうする……?」
「巻き込まれちゃかなわねーし……食堂で駄弁ろうぜ。ニールたちもどうだ?」
「うむ。迷惑をかけたお詫びに、ごちそうしようじゃないか」
死闘を繰り広げるふたりを放って、一同はなあなあの感じで解散となった。
かくして勃発した義兄妹喧嘩は、その日の夜ナタリアが眠くなるまで続き、ナタリアがシャーロットと一緒のベッドでぐっすり眠った次の日に朝ご飯を食べてからまた再開となって……そんな感じでのべ三日ほど泥沼の戦いが続き、学院の伝説がまたひとつ増えたという。
本日コミカライズ二話が更新されております!シャーロットがかわいい!
コミカライズは隔週木曜更新。次回は4/16(木)です。
そして本章これでラストです。お付き合いいただきまして、まことにありがとうございました!
これで毎日更新はいったんお休みして、次回は週一木曜更新になります。
書籍版もよろしくお願いいたします。こんなご時世なので、通販や電子書籍でぜひ!
次章、ミアハ番外編(全四話予定)。ついでに意外な人物の、どうでもいい秘密が明らかになります。