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百四十六話 大魔王の指導タイム③

 その日、晴れ渡った夕焼け空を背にして――。

 

「くそ……! 次こそは僕が勝つ! 覚えてろよ!」

「たぶん今日の夜には忘れますね」


 いつもの捨て台詞を残し、ボロボロのニールが手下どもを引き連れて走り去っていく。

 その背中を、ナタリアは雑に手を振りながら見送った。


 そんなナタリアの背後には、地下へと伸びる長い階段が伸びていた。立て看板には『学院鍛錬用ダンジョン(※使用の際は事務局にご連絡ください!)』という注意書きが記されてる。

 実際に魔物が放し飼いにされているダンジョンで、生徒が力試しに利用する修練場だ。


 その出入り口の前で、エルーカがバインダーを脇に挟んで拍手を送る。

 

「ダンジョン攻略タイムアタック勝負、勝者はナタリアちゃんー。いやー、圧倒的な勝負だったねえ。まさか三十分以上も差をつけるとは。ニールくんも優秀だけど、ナタリアちゃんは格が違うねー」

「お褒めいただき光栄です、審査員さん。ところでこのダンジョン、まだ奥があるようでしたが……どうして通行止めなんですか?」

「あー、あの奥にいるダンジョンボスがちょうど今産卵期で気が立ってるんだよ。もっとしっかり封印しちゃった方がいいかもねー」


 そんなことをつぶやきながら、エルーカは手際良くバインダーにメモをしていく。

 アレン同様、エルーカもこの学校をとうに卒業しているものの、たまにバイトとして校内の雑務を担っている。今回は学校ダンジョンの監視委員として、ナタリアとニールの勝負を見届けてくれたのだった。


 そんななか、シャーロットがタオルとボトルを持ってやってくる。


「お疲れ様です、ナタリアさん。ハーブティーをいれたんですけど……どうですか?」

「ありがとうございます。いただきます」


 ナタリアはボトルを受け取って、ゆっくりとお茶を飲む。

 そんな妹のことをシャーロットは微笑ましそうに見守っていて――そこにアレンはゆったりとした足取りで歩み寄り、労いの言葉をかけた。


「よし、今回は三時間を切ったな。自己ベスト更新じゃないか、ナタリア」

「ふふん、当然です。それにしても……」

 

 ナタリアは渋い顔をして、懐から一枚の紙を取り出してみせる。

 そこにはずらっと名前が羅列されていたが、ニールを除いてすべてにバツ印が書かれていた。

 ナタリアはニールが去った方をジト目でにらむ。

 

「ニールはしつこいですね。もう残るは彼だけですよ、私にケンカを売る馬鹿は」

「まあ、最後の砦というのは落としにくいものと相場が決まっているからなあ。気長に行こうじゃないか」

「……大魔王がそう言うのなら」


 ナタリアは不服そうにしながらも渋々うなずく。出会ったばかりのころの警戒心はもうすっかり薄れてしまっていた。

 バツ印の並ぶ紙を広げて、感慨深そうにため息をこぼす。

 

「しかし本当に天下取りが目前になりましたね……まさかたった一週間程度でニール以外のすべての勢力を下してしまうとは、わたし自身も不思議な気分です」

「ふっ、俺の言ったとおりだっただろう?」


 アレンはくつくつと笑う。

 この一週間、ナタリアのコーチとして勢力争いに付き合った結果がこれだ。


「何も集団を丸ごと相手取る必要はない。頭だけを各個撃破していけばいいんだ。そしてそのリーダー格の得意分野で、あえて勝負を挑む。それで勝てば、もう格の違いは明確だろう」

「シンプルですが、上下関係を叩き込むにはわかりやすい手でしたね」

 

 魔物使いの生徒には、魔物の捕獲勝負を。

 魔法薬学を専攻する生徒にはポーション調合対決を。

 そして戦闘を得意とする生徒には、シンプルな決闘を。


 とはいえ、アレンが伝授した喧嘩はそれだけではない。


「ふっ……しかし大魔王の奇策には感心しました。まさか一騎討ちだけでなく、敵の身内を落として戦闘を回避するやり方があるとは……」

「だろう? 戦わずして勝利する喧嘩も乙なものだぞ」


 敵チームのボスに溺愛する妹がいるとわかれば、その妹と仲良くなってみたり。

 お婆ちゃんっ子だと判明すれば、ご老人に人気の健康補助食品をプレゼントしてみたり。

 勝負事以外でもそうした工作も重ねた結果、ニール以外の者たちは白旗を上げ、一切絡んでくることがなくなったのだ。


 ナタリアの肩をぽんっと叩き、アレンは爽やかな笑顔で告げる。


「今回は学生相手ゆえ穏便な手だけ伝授するが、おまえが望むのなら……ギリギリ法に引っかからないレベルの裏工作も教えてやろうじゃないか。洗脳に脅迫、賄賂……うまく使えばこれほど楽しい武器もないからな」

「くっくっくっ……面白いじゃないですか。是非ともよろしくお願いしますよ」

「ふっふっふっ……おまえなら上手く使いこなせると期待しているぞ」

「な、ナタリアさんがどんどんイケナイ子になっている気がします……!」

 

 シャーロットは青い顔をしながらも、アレンを止めようとはしなかった。

 この一週間すぐそばで見守った結果、危ないことは一切教えていないと分かったからだろう。

 実際これまで多くの勝負をしてきたが、ナタリアは毎回きちんと怪我を回避している。アレンの教えの賜物だった。

続きは明日更新します。

日付が変わったあたりでコミカライズ公開予定です!よろしくお願いいたします。

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コミカライズ十巻発売!
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― 新着の感想 ―
[良い点] ニールってもしかして...好きなんじゃ... [一言] こうしてもう1人の大魔王が誕生したのであった...なんてなりませんよね?!
[一言] 何気にナタリアとの方が合ってたり?(笑)
[良い点] さすがはアレン(さすアレ)! 多種多様の手練手管ですなw 弟子物覚えがよさそうで一気に世界征服がはかどr・・・ あ ちがったw [気になる点] ナタリアのほうが よりイケナイことしてるよう…
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