百四十二話 問題児との面談②
キザったらしい声に振り向けば、そこには青い髪の少年が立っていた。
年のころは十歳前後。
ただし、その整った相貌に浮かべるのは、年の割にはニヒルな笑みだ。
背後に控えるのは大柄な人間の生徒、十名余り。見るもわかりやすいお山の大将である。
「ほう、おまえの学友か。舎弟以外にも友達がいるんだな」
「やめてください、気色悪い。こんなの友でもなんでもありません」
アレンの軽口に、ナタリアはひどく顔をしかめてみせた。
そのままのしかめっ面で少年を睥睨する。
「なんの用ですか、ニール」
「いやなに、すこし挨拶をと思っただけさ」
ニールと呼ばれた少年はわざとらしくかぶりを振って、乱雑な拍手を送る。
「先日、鍛冶クラスの連中を下したみたいだな。まずはおめでとう。あいつらもなかなかやる方だが、さすがはナタリアくんだな」
「ふん、当然です。あの程度の連中、わたしの足元にも及びません」
「それでこそ僕のライバルだ。だが……」
ニールはそこで言葉を切って、ナタリアのことを鋭い目でじっと睨みつける。
「くれぐれもいい気になるなよ。おまえの天下はもうじき終わる。この僕が、引導を渡してやるんだからな」
「はっ。雑魚がよく吠えるものですねえ」
ナタリアはそれを鼻で笑い飛ばし、少年を真っ向から睨み返した。
少年少女の間に熾烈な火花が散る。
それぞれの取り巻きたちも睨み合い、重苦しい空気が満ちた。
しかしその中で、アレンは平然と麺をすする音を響かせる。
(ああ、なるほど。ライバルポジションというやつか)
彼も年若いなりに優秀そうだ。さぞかし神童として持て囃されたことだろう。
それがある日突然現れたナタリアに三ヶ月足らずで首位を奪われたのだから、当然面白くないはず。
ニールはナタリアたちの舎弟に目を向けて、揶揄するように目を細めてみせる。
「吠える、か……それは君の配下たちではないのかな。今日も獣臭くてかなわん」
「ああ……?」
「てめえ、言わせておけば――」
「おまえたち、およしなさい」
気色ばむ舎弟たちを制し、ナタリアは淡々と言う。
「悪いですが今は食事の最中です。また決闘がしたいのでしたら、アポを取ること。社会の常識ですよ」
「ちっ……澄ました女め。行くぞ、おまえたち」
ニールは舌打ちを残し、手下どもを率いて踵を返す。
空気はもう最悪だが、アレンはチャーハンの最後の一粒にいたるまでしっかり完食していた。
(いやあ、青春だなあ。俺も昔はあんな感じだった)
自分もその昔、こんな風にしていろんな生徒に因縁を吹っ掛けられたものである。そしてどれもこれも容赦なく叩き潰してきた。
(まあ俺には舎弟など皆無だったが……うん。そう考えるとナタリアの方が健全なのでは?)
ほのぼのした感想を抱いていたものの――。
「きゃっ……!?」
「っ……!」
小さな悲鳴が聞こえた瞬間、アレンは弾かれたように顔を上げた。
見ればシャーロットが床に腰を落として目を丸くしていた。
どうやらニールの配下のひとりとぶつかったらしい。その足元には運んできたらしいお盆とサラダが、無残にも散らばってしまっていた。
シャーロットは慌ててそれを片付けようとするのだが――。
「あう……す、すみません! すぐに片付けます……!」
「ちっ、ぼさっと歩いてんじゃねえよ」
ぶつかったらしい手下その一は、シャーロットを気遣うこともなく顔をしかめて高圧的に言う。
「エミリオ坊ちゃんの邪魔だ。早くそこをど――」
「この、不届き者があああああッッ!!」
「へぶぼほぉっ!?」
怒声が轟くと同時、手下その一が綺麗な放物線を描いて吹き飛んだ。
アレンではない。
ナタリアが予備動作なしの綺麗な飛び膝蹴りを放ったのだ。
続きは明日更新します。
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