百三十八話 問題児へのアプローチ③
(ほう……?)
すこしばかり考えこんで、攻めてみることを決めた。
アレンはシャーロットの肩をぽんっと叩いて告げる。
「うちの助手はまだ駆け出しでな。今回の任務ついでに、魔法を一から勉強させようと思っているんだ。なあ、シャロ」
「は、はい。未熟者ですが、どうかよろしくお願いします」
「はあ……」
ぺこぺこと頭を下げるシャーロットに、ナタリアは生返事をするばかり。
アレンのことは警戒すべき対象だと認定したようだが、見るからに無害なシャーロットのことはどう判断すればいいのか考えあぐねているようだった。
そんな妹に、シャーロットは勇気を出すようにしておずおずと話しかける。
「でもナタリア……さんはすごいですねえ。やっぱり、いっぱいお勉強されたんですか?」
「こ、この程度はどうということもありません。基礎の基礎です」
「それでもすごいです。この講堂にだってたくさん大人の方がいらっしゃるのに、そんなところに混ざって勉強するなんて……本当に尊敬します!」
「ここは年齢など関係なく、実力主義の学び舎ですから……」
ナタリアはごにょごにょと言葉を濁して顔を背ける。
セリフはつれないものだが、刺はもう九割がた抜け落ちてしまったようだった。
そこにアレンはニヤリと笑ってとどめを刺す。
「ちょうどいいじゃないか、シャロ。そこの神童どのに魔法のいろはについて教えを請うといい」
「はあ? なんでわたしが……」
「そ、そうですよ。アレンさん。お勉強の邪魔をしては申し訳ないです」
ムッとしたように顔をしかめるナタリアに、シャーロットが慌ててフォローを入れる。
しかしシャーロットはおずおずと両手の指をすり合わせて――。
「で、でも、もしもお暇があったのなら……すこしでも教えていただけたら……その」
そこで言葉を切って、ぐっと気合を入れて宣言する。
「私、嬉しすぎて、気絶しちゃうかもしれません……!」
「なんでそこまで……?」
「あっ、大丈夫です。頑張って我慢しますから!」
「本当になぜですか……?」
ナタリアは困惑を隠そうともせずにシャーロットをじーっと見つめる。
しかしそれが本気だと分かったのだろう。やがてそっと目を逸らし、ぽつりと言う。
「……このあとは他のクラスとの決闘試合がありますので。今の講義中ならかまいませんよ」
「ほ、本当ですか!?」
シャーロットはその言葉を聞いてぱっと花が咲いたように笑う。それに、ナタリアもほんのわずかだが相好を崩してみせた。
「ええ。ですが少しだけです。ほら、大魔王は邪魔です。おどきなさい」
「わかったわかった」
しっしと追い払われるままに席を譲れば、姉妹の講義が幕を開けた。
ナタリアはノートを広げ、図を書いて説明をはじめる。
「いいですか、五大魔元素というのはですね――それで先ほど話に上がった雷撃魔法は――」
「は、はい」
それに真剣に耳を傾けながらも、シャーロットは妹の顔をちらちらと盗み見た。
ずっと会いたいと願ってきた妹がこんなにすぐそばにいるのだ。
胸いっぱいの思いが、後ろで見ているアレンにも伝わってくる。
(おお、いい感じに距離が縮まったじゃないか。女性が相手だからか?)
子供の警戒心を解くには、やはり女性が適任だ。
だがしかしアレンにはもっと他の理由があるように思えてならなかった。
(もしくは、姉に重ねているのか……どちらだろうなあ)
アレンは顎を撫でつつ、仲睦まじく授業をする姉妹の後ろ姿をじっと見守った。
続きはまた明日。
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