百三十一話 クロフォード家③
ハーヴェイは勢い付いたまま、大仰な身振りを合わせてまくし立てる。
「たしかに学長職は名誉ある職です! 多くの生徒達を育てるよろこびも、魔法研究のやり甲斐もすばらしいものと言えるでしょう! ですがそんなもの……リズちゃんに比べたら無価値に等しい! 私はとっととすべてを息子に丸投げして山奥の別荘にでも引っ込んで、妻と日がな一日イチャイチャするだけの毎日を送りたいんですよ!」
「正直過ぎるだろ!? 俺が言うのもなんだが、息子のことをなんだと思っているんだ!」
「もちろん可愛い息子だと思っていますよ。だからほら、そろそろ新しい妹だか弟だかに会わせてあげたいなー、と」
「やめんか生々しい……!」
お互い掴み掛からん勢いでぎゃーぎゃーと騒ぎ立てる親子である。
三年前もこんな感じで口論となり、三日三晩の死闘を繰り広げてしまった。
今回は近くにシャーロットやリーゼロッテがいるので、お互い魔法を出すことは避けて口論オンリーだ。
そんな仲睦まじい親子を横目に、リーゼロッテは紅茶のカップを傾けながらため息をこぼす。
「ごめんなさいねえ、シャーロットちゃん。うちの家族ったら騒がしくって。びっくりさせちゃったかしら~」
「い、いえ。仲良しなご家族で羨ましいです!」
「うふふ、ありがとうねえ。でもシャーロットちゃんも、もう私たちの娘みたいなものよ」
リーゼロッテは席を立ち、シャーロットの頭をそっと撫でる。
「あなたも色々あったんでしょう? もうひとりのお母さんができたと思って、甘えてくれたらうれしいわ〜」
「お母様……」
『ルゥもルゥも! リズママのクッキーおいしいもん!』
「もちろんあなたもうちの子よ~。いっぱい食べてちょうだいねえ」
ルゥにすり寄られ、ますますにこにこと相好を崩すリーゼロッテだった。見た目こそ幼いものの、アレンとエルーカを育て上げただけあって、内面はしっかり者の母親である。
醜い親子喧嘩と、ほのぼのする女子勢。
そんな対照的な光景を前にしてゴウセツは唸り声を上げた。
『さすがはアレンどののご実家ですな。奇人変人のバーゲンセールとでも申しましょうか』
「いやー、ごめんね。うちのパパとママがはしゃいじゃって」
『おや、エルーカどの。お帰りなさいまし』
帰ってきたエルーカが、応接間の現状を見てため息をこぼす。
そばにはわざわざ運んできたらしい大きな物が立っていて、白い布がかけられていた。
エルーカは父親をチラ見して、やれやれと肩を竦めてみせる。
「もー、パパったらまたその話? 三年前の大喧嘩で諦めたんじゃなかったの」
「うっ……たしかにあれで私も懲りましたが」
気まずそうに視線を逸らすハーヴェイだった。
たしかにあの喧嘩以来、手紙でも学長の話は『気が変わっていたらいいなー』くらいの軽いノリでたまに聞かれるくらいのものだった。
「だったらなんで今頃になってこんなにグイグイ来るんだ」
「実は……最近うちの学校では問題が続出しているんですよ」
ハーヴェイはソファーに腰を落とし、重いため息をこぼしてみせる。
頭を抱えて項垂れるその様はかなり悲壮なもので、相当参っているらしい。
「近頃、一部の生徒らが派閥争いのようなものを行っていましてね。おまけにその中心となっているのが主席クラスの実力者たちで……学院側も手を焼いている始末なんですよ」
「ふむ、縄張り争いのようなものか? その程度なら俺がいた時代にもあったじゃないか」
「あの頃はまだ可愛いものです。今は大きいところだと、構成員は百名ほどまで膨れ上がっていますからねえ。そんなのが毎日、島のあちこちで衝突してみてください。さすがに参るってものですよ」
「それはまた物騒な話だな。ひょっとして港で揉めていたのも……」
「ええ、その一員でしょう」
ハーヴェイは投げやりに首肯する。
学校という閉鎖された環境である以上、派閥というものはどうしても生じてくる。
それらがぶつかるなんてことも日常茶飯事だ。
だがしかし、百人単位の規模の集団がしのぎを削るとなると話がかなり変わってくる。
ここの学院の生徒は粒揃いだ。その中でも主席クラスが率いているともなると、学生の小競り合いとはとうてい呼べず、もはやギャングの抗争と言ってもいいだろう。
実際、ハーヴェイがげんなりしつつ並べ立てる事件の数々は、それなりに大規模なものだった。
学院の校舎が丸々一棟半壊したり、海が割れたり、生徒が呼び出したドラゴンたちが空を埋め尽くしたり……などなど。
観光客からの苦情もひっきりなしに寄せられているらしい。
そこまで語り終えてからハーヴェイは顔を上げる。
色濃い絶望を貼り付けながら訴えかけることには――。
「おかげで私はその対応に追われ、前にも増してリズちゃんとイチャイチャできていないんです……! この苦しみが君にわかりますか!? わかるはずですよね! アレンだって念願の初彼女ができたばかりなんですから! くそう、四六時中恋人とひとつ屋根の下とか、そんなのなんでもやりたい放題じゃないですか! 私にもその時間を分けて欲しい……!」
「そんなにぶっ飛ばされたいのか……いや、待てよ」
拳を握りかけたアレンだが、ふと気付いて顎を撫でる。
「学院が荒れていると言ったな。ひょっとしてそれは……シャーロットの妹にも関係する話なのか?」
「な、ナタリアですか?」
「ふむ……勘の良さは相変わらずのようですね」
続きは明日更新します。
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