百二十二話 人気者の優雅な休日④
「だからと言ってしょっ引くか、ふつう……こんな理由で捕縛していたら領主が怒るだろ」
「ふふん、そんなことはありません。我が近衛兵団は検挙率が地域一ですから領主様の覚えもいいのです。領主様からは頻繁に『またお前らか』や『真面目なのはいいことだが……』や『働きすぎでは? 一同揃って温泉休暇などどうだ?』などのお褒めのお手紙をいただくほどです」
「それ、決して褒めてるわけではないと思うぞ」
どうやらこの地域の領主どのは、問題児集団によほど手を焼いているらしい。
そんな取り調べを受ける最中にも、男が団員ふたりに連行されてやってくる。男はそれなりに屈強な見た目をしてるわりに、真っ青な顔で喚き散らす。
「なんで俺が捕まらなきゃいけねえんだよだよ!? ちょっとゴミをポイ捨てしただけだろ!?」
「問答無用。街の景観を汚すのは悪です」
「罰として奉仕作業をお願いしますが、それまでしばらく留置場で待機してください」
団員たちは平然と男を引き立てて、奥の方へと消えて行った。どうやら日常茶飯事の光景らしい。
ジゼルはそれを見送ってから、かぶりを振ってみせる。
「かの岩人族のメーガス一行や、ゴロツキどもの吹き溜りとなっていたメアード地区も、我らがなんとか制圧しようと作戦を立てていたのです。そんな折、貴殿が両者を傘下に収めたと聞き、さぞかし正義を体現する方なのだろうと思っておりました。それがまさか、このような悪人だったとは……がっかりです」
「言うなあ、おい……」
アレンは生返事をするしかない。
(この街……冒険者が多いのにそれなりに治安がいいのは、こいつらが抑止力になっていたからなのか?)
冒険者の中には気性の荒いゴロツキ崩れも多い。
以前のメーガスやグローたちなどがいい例だ。ダンジョンが近くにある街は栄えもするが、その分厄介ごとも多くなる。
しかしこの街は例外的に平穏なものだった。
ゴロツキのたまり場だったメアード地区がアレンの手に落ちた今、小さな事件すら噂に聞くことがない。
その治安の良さに多少疑いを抱いていたものの……なるほど。超絶堅物集団があらゆる軽犯罪を取り締まっているとなれば、こんなことにもなるだろう。
「貴様らが己の正義を掲げて職務を全うしていることは理解した。とはいえ恐らくだが……市民からの評判はよくないだろう?」
「ぐっ……た、たしかになぜか苦情も多く寄せられますが……これも正義を執行するため。私どもは憎まれ役を勤めるまでです」
ジゼルは多少顔をゆがめてみせたものの、最後には毅然として言ってのけた。
志は見上げたものだが……これでは遅かれ早かれ彼女らの解任は免れないことだろう。
「ふむ、なるほど。事情はよーくわかったぞ」
「我らの正義をご理解いただけたようで恐縮です。では勾留の手続きを始めますので、同意書にサインを――」
「その前に」
何やら書類を取り出そうとするジゼルに、アレンはぴんと人差し指を立ててこう尋ねた。
「いくつか聞かせてくれ、ジゼル。おまえ……趣味はあるか?」
「は?」
ジゼルは目を瞬かせる。
あまりに唐突な質問に、仕事のことも一瞬で頭から飛んだらしい。彼女は眉をぎゅうっと寄せて考え込む。
「趣味……自己鍛錬でしょうか。あとは街のパトロールとか、お年寄りへの声かけとか」
「それは仕事だろ……では、最近うれしかったことは?」
「ああ、それはあります。以前補導した方々が、そろって『お礼参り』として私の鍛錬に付き合ってくださったのです。彼らも正義に目覚めた証でしょう。誠心誠意、本気でねじ伏せさせていただきました」
「恩返しではなく、間違いなく報復だと思うぞ」
とはいえ聞きたいことは以上だ。
ある意味予想通りの返答で、アレンはしみじみするばかりだった。
(いやあ、拾ったばかりの頃のシャーロットを思い出すなあ……)
息の抜き方を一切知らず、ただ与えられた仕事をこなすのみ。
それだけならまだいい方だが、シャーロットと違ってジゼルの場合はちょっと暴走気味の傾向がある。
そんな相手に取るべき手など……アレンはひとつしか持ち合わせていなかった。
「よし、わかった。こうしようじゃないか、ジゼル」
「む……なんでしょうか」
アレンがにこやかに切り出したため、ジゼルがその顔に警戒の色を浮かべる。
しかしアレンはおかまいなしだ。芝居がかった調子で両手を上げて、降伏のポーズを取る。
「観念した。俺は己の罪を認めよう。だが、それにはひとつだけ条件がある」
「条件……ですか?」
「ああ。罪を認める代わりに、俺の行いがどれだけ罪深いものだったのか、その身を持って体験してもらいたい。その上で、俺の罪の重さを決めてくれ」
「ふむ、なるほど……たしかにシャーロットさんが受けた虐待は、私には未知のもの。彼女の受けた苦しみを知らねば、裁くこともままなりませんね……」
ジゼルは顎を撫でてうなる。
しばし考え込んだものの……彼女はやがて毅然とした面持ちで深く頷いてみせた。
「いいでしょう、貴殿の申し出を受けましょう。私はイケナイことなどに屈しませんから」
「よし、言ったな?」
アレンはニヤリと笑う。
こうなればもうジゼルは蜘蛛の巣にかかった獲物にも等しい。
彼女をどう料理しようか猛スピードで思考を巡らせつつ――アレンは声高に言い放った。
「ならば……今すぐ部下を全員集めろ! 全員まとめて、イケナイことのフルコースをお見舞いしてくれるわ!」
続きはまた来週。
あと一回くらいで終わらせて次は新章です。久々エルーカ登場。そのほか癖の強い新キャラたちも予定登場です。





