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百十四話 イチャイチャしつつ敵をひねる②

 一面の暗闇の中、商品棚に並ぶ水晶や試験管の液体などが、ぼんやりとした光を放つ。

 おかげですぐそばのシャーロットの顔がよく見えた。

 不安そうにする彼女に、アレンはやんわりと笑いかける。

 

「そう心配するな。これくらいのアクシデント、ここではいつものことだ」

「そうなんですか?」

「ああ。しばらく待っていれば明かりもつく。だが俺のそばを離れるなよ」

「は、はい。早く明るくなるといいですね」

 

 するとシャーロットの表情が少しだけゆるんだ。

 単なる照明の不調だと思ってくれたらしい。


 とはいえアレンも嘘は言っていない。

 この店は国内でも有数の品揃えを誇る魔法道具屋――金色商店だ。客も多いが賊も多い。こうした不意のアクシデントは日常茶飯事なのだ。

 そのぶんセキュリティは万全だが、今回はアレンの獲物だ。

 謹んでこちらで処分させていただくとする。


(ふむ、そろそろ仕掛けてくるか。挑発した甲斐があったな)

 

 そう。アレンはなにも無目的にイチャついていたわけではない。

 油断しているところを晒せば、敵もその分油断して襲撃を早めると踏んでのことだった。

 その狙い通りに、周囲の空気は一段と張り詰めている。

 これなら襲撃は秒読みだろう。


 重々の手応えにうなずきつつ――アレンはにやりと笑う。

 

(まあ、それはそれとして全力で楽しませてもらったがな! あー、俺の恋人が世界一かわいいなあ!)

 

 ミアハに言われたように、肩肘を張る必要などなかったのだ。

 自分たちはこれまで通りで問題ない。シャーロットの喜ぶ顔や、驚く顔を見るために、ありとあらゆるイケナイことを教えるだけだ。

 そんな日常に……敵の排除という雑務が加わっただけである。


(しかしシャーロットにバレず、賊を片付けるにはどうしたものか……あっ)


 そこで名案をひらめいた。

 アレンは爽やかな笑みを浮かべて、内緒話でもするように声をひそめてみせる。

  

「よし、もののついでだ。魔法の練習でもしてみよう」

「練習……ですか?」

「ああ。初歩の初歩。明かりを生み出す魔法だ」

 

 魔灯(ライティング)という魔法である。

 炎と違って熱を発さず、風にも雨にも消されないことから、使い勝手がかなりいい。習得難易度もかなり低いため、数ある魔法の中でも、一般市民の普及率がだんとつトップクラスの代物だ。


 そう説明すると、シャーロットが目を輝かせる。 


「やってみたいです! アレンさんみたいな、かっこいい魔法使いになりたいです!」

「意欲的な生徒は大歓迎だ。それじゃあ授業開始といこう」

 

 そんな彼女に、アレンは目を細める。

 こうして即席授業がはじまった。アレンがかつて教鞭を取っていた時代はスパルタで名を馳せたものだが、今回はもちろん手取り足取りの甘々モードである。

 

「まずは目を閉じて、心の中に光のイメージを思い浮かべるんだ」

「え、えっと、イメージって、どんな感じでしょう」

「真っ暗な部屋の中で、ランタンに火を灯す。そんな光景だ。光の大きさとか明るさとか、その辺を明確に心に描く」

「なるほど……ちょっとやってみますね」


 シャーロットは杖を両手でにぎったまま、そっとまぶたを落とす。

 その顔は真剣そのものだが、未知へのわくわくでいっぱいだった。

 

(本当に……おまえは変わったな)

 

 アレンの助力など微々たるものだった。

 彼女がここまで変われたのは、ひとえに彼女自身のひたむきさによるものだ。

 それを守りたいと、強く思った。

 

(おまえがようやく手に入れたもの。それを奪おうとする奴らを……俺は絶対に許さない)

 

 小さく息をこぼし、アレンはあたりを見やる。

 すでに目は闇に慣れていた。どこまでも続く暗闇が、次第に明確な形を為して揺らめきはじめる。


「よし、俺が合図をするまでそのままだ。しっかりとイメージの練習を続けるとい」

「はいっ!」

 

 シャーロットが元気よく返事をすると同時。

 

「……封風神陣(シルフ・フィールド)


 アレンは指を鳴らし、彼女の周囲に風の障壁を張り巡らせる。

 シャーロットの身を守るため……というよりも防音のためである。これで外の音は一切彼女に届かない。


 準備完了である。

 アレンは右手人差し指をぴんと立て、ゆっくりと曲げる。


 

 来い。


 

 その刹那、闇が弾丸のように撃ち出された。

 アレンはローブを翻して呪文を紡ぐ。広範囲に電撃を走らせる高位魔法だ。威力は絶大だが呪文が長い。

 その一節を唱え終えるより早く、ひとつの敵影がアレンの目の前に躍り出て――。

 

「がっ、は……!?」

 

 そのまま床にぶっ倒れ、ぴくりとも動かなくなった。ほかの影たちも同様だ。あちこちからくぐもった呻き声が響き、ばたりと床に転がっていく。目元以外を黒い布で覆った、獣人の男たちだ。


「わはは! かかったなバカどもめが!」


 アレンは呪文を中断して哄笑を上げる。  

 なんということはない。先端に神経毒をたっぷり塗布した針を、ローブを翻した瞬間に投擲しただけだ。長ったらしい呪文はブラフである。

 

 魔法使いなら魔法で勝負しろ?

 馬鹿なことを言ってはいけない。


 向こうはアレンのことを魔法使いとして認識してかかってくるはず。ならばその裏をかいてやるのが正しい戦い方というものだ。

 あと単純に、騙し討ちというものが非常に性に合っていた。

 

「悪いがこちらも手段を選んでいる暇はないのでなあ! 残りもまとめてかかってくるがいい!」

「言われずとも」

 

 声高に告げると同時、アレンの背後で殺気が膨れ上がった。

 どうやら撃ち漏らしがいたらしい。だがしかし――。

 

「枝払い!」

「わふぅっ!」

「ぐがああああああ!?」


 凛と響く女の声と、獣の咆哮。

 それらがアレンの背後に湧いた敵をなぎ払い、商品棚に叩きつけた。ゴウセツとルゥの仕業だ。姿こそ表さないものの、ちゃんと援護してくれるらしい。

 

「よし、背後は任せたぞ! おまえたち!」

「くっ……! みなのもの! 行くぞ!」

 

 かくして盛大な乱闘が幕を開けた。

 轟音と爆音、悲鳴と怒声が響く中――。

 

「うーん、うーん……明るい光……あったかいココア……アレンさんとの夜更かし……はっ、いけません! 集中です、集中しないと……」

 

 シャーロットは風の結界の中、ひとり真剣にイメージトレーニングを続けるのだった。

続きはまた四日後、11/14(木)に更新します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] シャーロットさんは天使。そして独り言を聞かれて...たら面白そうなのに...
[一言] こっちも2日で一気読みさせて頂きました。 いやぁ、シャーロットちゃん可愛ええなぁ。 なんか保護者気分で楽しめるわ。 頑張ってください。
[良い点] あー、私の推しカプが世界一かわいいなあ! シャロちゃんにとっての明るい光が、アレン氏と過ごした日々のことなんだろうなぁって考えたら、目からなんかしょっぱいやつが… そして騙し討ちが性に合う…
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