百五話 イケナイデート計画③
アレンとシャーロットがじっと見つめ合う最中、メーガスやグローたちはこそこそとミアハと話し合う。
「ええー……無難なデートってダメなのか……」
「いえ、正直に言うと別にいいんですにゃ。むやみにはりきって失敗するより、はるかに手堅い手ですにゃ」
「じゃあなんでさっきは全否定したんだよ」
「ほら……魔王さんが王道なデートを目指したって、絶対緊張でグダグダになるだけなのですにゃ。それならいつも通り振舞ってもらった方がよっぽどマシですにゃ」
「ああ……あの人、色恋沙汰だと土壇場でヘタれるタイプだもんな」
「お嬢ちゃん、人を見る目があるなあ……」
なにやらヒソヒソと失礼な話が聞こえてくるが、ひとまずそちらは無視しておく。
シャーロットの手を取ったまま、アレンは真剣な顔で告げる。
「その、シャーロット……」
「は、はい……?」
シャーロットが不安げに小首をかしげてみせた。
その顔の角度だったり、かすかに揺れた瞳だったり、ほんの少し開いた唇からのぞく白い歯だったり。
それらのすべてが、アレンの目にはきらきら輝いて見えた。
(お、おかしい……こんなに可愛かっただろうか……?)
想いが通じ合ってから、むやみやたらと彼女が魅力的に写る。
アレンはおもわずごくりと喉を鳴らしてしまう。生唾と一緒に言うべき言葉まで飲み込みそうになったものの――なんとか堪えて、思いっきりそれを叫んだ。
「たのむ! 俺と……デートしてくれ!」
「へ」
その言葉に、シャーロットはぴしりと固まってしまう。
おかげでアレンは慌てふためくしかないのだが――。
「あっ、い、嫌だったか……?」
「い、いえ、そんなことはない、です……デート……デート、ですか……」
シャーロットは頰を赤く染め、ほんの少しだけはにかんでみせる。
「お、お誘い、うれしい、です。よろしくお願い、します」
「っ……!」
その瞬間、アレンの体に電撃が走った。
シャーロットを抱き上げて、そのまま街を一周したい衝動に駆られたが……体が凍りついて動かなかったおかげで、ことなきを得た。
「よ、よし。それじゃ明日。明日出かけよう。ふたりで」
「は、はい。ふたり、一緒にですね」
アレンとシャーロットは壊れかけの魔道人形のようにぎこちなく言葉を交わす。
『ルゥたち、おるすばんだねー……』
『こればかりは仕方ありませんな。初でぇとの邪魔など言語道断ですゆえ』
ルゥやゴウセツばかりか、店内の客たちがそれを生あたたかい目で見守った。
そんななか、アレンは湧き上がる喜びを力一杯に噛みしめる。
(告白してよかった……! 俺は世界一の幸せ者だ……!)
まだデートもしていないのに、すでに幸せの絶頂だった。これでデートをしたらどうなるのだろう。死のイメージしか浮かばなかったが、それはそれで満ち足りた最期だと思えた。
そんな益体のないことをぼんやり考えていた、そのときだ。
「っ…………!」
突然、その場に苛烈な気配が走り、アレンは小さく息を飲んだ。
今のは間違いなく殺気だ。
ほんの一瞬かつ微弱なもので、この場でそれに気付いたのはアレンと……ルゥやゴウセツだけらしい。
二匹とも口をつぐみ、さりげなく周囲の様子をうかがっている。
「アレンさん、どうかしましたか?」
「い、いや。なんでもない」
シャーロットが小首をかしげてみせるが、アレンはにこやかに断言する。
(今の殺気は間違いなく、俺たちへ……いや、シャーロットへ向けられていた)
アレンはそっとテーブルの上に目を落とす。
そこにはいくつものグラスが並べられ、酒場内の景色が写り込んでいた。
こちらを微笑ましげに見つめる客たち、遠巻きにするウェイトレス、我関せずと馬鹿騒ぎをしている連中……そして、そんな片隅で。
「…………」
ひとりの獣人が、安酒を黙々と呷っていた。
全身細かな黒い毛で覆われ、顔形は豹そのもの。右目を眼帯で覆ったその獣人は、じっとこちらを伺っている。そして、その手元には一枚の紙が広げられていた。
それは間違いなく――シャーロットの手配書だった。
続きは10月17日(木)更新します。
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