最終話 地獄行きの列車と死の亡霊
三途川駅の駅舎に戻った章洋は、脇目も振らずに構内通路を通って島式ホームへやってきた。ホームの左側には、あの列車が停車したままである。
「もしかして、帰りも同じようなことにはならないよな……」
様々な恐怖に出くわして散々な目に遭っただけに、同じ列車には乗りたくないというのが章洋の本心である。しかし、再び戻るためにはその列車に乗車しなければならない。
章洋はためらった様子を見せながらも、停車中のディーゼルカーに足を踏み入れることにした。列車の中には、乗客がビクともすることなく席に座っている。
全く動こうとしない乗客の様子に、章洋の周りはどんよりとした雰囲気が漂っている。
すると、出発時刻と同時に列車のドアが一斉に閉まった。
「これで、ようやく元の駅へ戻ることができる……」
章洋は、恐ろしい状況からようやく解放できるとホッと一息をついた。しかし、自動音声が車内に流れたそのときのことである。
「ご乗車ありがとうございます。次は、地獄、地獄です……」
「えっ? 地獄って、まさかね……」
章洋は、地獄と言う2文字の言葉に自分の耳を疑った。なぜなら、その言葉が現実のものになるとは思えなかったからである。
そのときのことである。今まで座っていた乗客が、いきなり席から立ち上がっては章洋のほうへ近づいてきた。その乗客は亡霊に姿を変えると、自らの青白い左腕が章洋の首筋に迫ってきた。
「こ、この亡霊が地獄への入り口なのか……」
これを見た章洋は、あまりの恐ろしさに別の場所へ移動することにした。ところが、別の席にいる乗客も亡霊になって章洋のそばへやってきた。
列車もまだ停車する気配が見られない中、章洋の周りには亡霊が取り囲んでいる。
「さあ、あんたも地獄へ行こう」「力ずくでも地獄へ引きずり込んでやるぜ……」
「地獄でエンマ様が待っているぞ……」「エンマ様に会うのが楽しみだなあ」
亡霊たちの不気味な言葉に、章洋はあまりの恐怖に声を出すことができない。そして、亡霊たちは、章洋にしがみつくとそのまま離れることなく次の言葉を発した。
「さあ行こう、地獄へ」「さあ行こう、地獄へ」
「うわあああっ、うわあああああああああああああっ!」
何度も繰り返す『地獄』の2文字に、パニックに陥った章洋は車内に響き渡るほどの叫び声を上げた。
その後、章洋を見たという人は誰もいない。
数年経過したある日、廃止されたローカル線の路線跡地付近で白骨化した遺体が偶然発見された。しかし、その遺体はDNA鑑定されることはなかった。
こうして、事件なのか事故なのか、はたまた自殺なのかはっきりしないままお蔵入りすることになった。もちろん、その遺体が章洋であるかどうかも分からない。
いずれにせよ、廃止された路線に停車している列車に乗ると恐怖に巻き込まれて命を落とすかもしれない。
どんなことがあっても、その列車に決して乗ってはいけない。あなたの命を失わないためにも……。




