第4話 もの寂しい終着駅の駅舎
ドアが閉まって再び走り出した列車であるが、章洋はつり革を持ったままで憔悴しきった顔をしている。
「次はどこへ行くのだろうか……」
いつもなら、地方の原風景をローカル列車の窓から見るのが鉄道マニアとしての楽しみである。しかし、章洋が現在置かれている状況はその逆である。
現在走っている線路は、廃線となったローカル線のはずである。しかし、廃線となって1年が経過すれば、既に線路がはがされていても不思議ではない。
このローカル線が廃線になったことは、章洋も新聞や鉄道雑誌に載った写真や記事を通して知っている。先日見た鉄道雑誌には、廃線区間の一部の線路を撤去した旨の記事も乗っていた。
そう考えると、この列車が撤去区間に近づいてもおかしくないはずである。それにもかかわらず、一向に撤去区間が見えないのはなぜだろうか。
章洋の不安が大きくなる中、チャイムの音が1両編成の車内に響いた。そして、すぐに自動音声での駅名案内が章洋の耳に入ってきた。
「次は終点、三途川、三途川です。お出口は右側です……」
「本当に終点が三途川なのか……。本当に見たくない……」
その途端、章洋は恐いものに対する拒絶反応から思わず吐き気を催した。恐いものにこれ以上関わったら、自らの命も危うくなりかねないと考えているからである。
やがて、列車は交換可能な島式ホームの手前で左側の線路へ入った。そこからゆっくりと1番ホームに停車すると、右側のドアが一斉に開いた。
さすがに終点とあっては、列車から降りるのを拒否するわけにはいかない。章洋は、不安な面持ちでホームへ降りることにした。
すると、今まで全く動く気配がなかった乗客の面々が列車から降りてきた。彼らは、島式ホームから構内通路を通って次々と駅舎の中へ入って行った。
「いったいどうなっているんだ……」
章洋は戸惑いながらも、他の乗客と同じように構内通路を歩くことにした。そこには、列車の入線時に不可欠である踏切と遮断機が設置されている。
こうした閑散ローカル線で跨線橋があるのは、乗客数が比較的見込める主要駅に限られている。すなわち、行き違い設備がある駅であっても構内通路を通って駅舎へ入るというのが当たり前の光景である。
三途川駅の駅舎へ入ると、そこにはおどろおどろしい雰囲気が漂っている。誰もいない窓口に、シャッターが閉まったままの小さな売店……。
そもそも、章洋の乗った列車が走っていたのは廃線になったローカル線である。このローカル線が廃線になったのは、沿線人口の激減に伴う乗客数の減少が大きな原因である。
ローカル線の終着駅にしてはもの寂しい駅舎から出ると、目の前に広大な菜の花畑が広がっている。それまで、ホーム上での不気味な光景を見ては恐怖におびえていただけに、章洋はいい意味で拍子抜けとなった。
章洋は、ずっと広がる菜の花畑の間にある細い一本道を歩いていくことにした。本当の恐怖がその後再び訪れるとも知らずに……。