第3話 頭がい骨から発する呪いのメッセージ
列車に戻った章洋は、ホーム上で見たあの光景がすぐによみがえってきた。異様な雰囲気の中で、わら人形を五寸釘で打ちつけて呪いをかける様子は章洋でなくても気味の悪いものである。
「思い出すだけで、本当に吐き気がしそうだ……」
章洋は、あれだけの一団が呪いの言葉をかけるのを目にしたことで相当なトラウマを抱えているようである。シートに座っている乗客は、始発駅から全く変わっていない。
ずっと沈黙が続く車内を見回すたびに、章洋の不安の度合いが高まってきた。
「どうか、次の駅は恐いところでないように……」
その間も、章洋が乗っている列車は進み続けている。もちろん、章洋にとってはこれ以上恐い目に遭いたくないというのが本音である。
しかし、チャイムに続いて車内に流れた自動音声は、章洋の期待を大きく裏切るものとなった。
「次は、晒し首、晒し首です。お出口は左側です」
「晒し首って、まさか獄門台というわけじゃ……」
晒し首という駅名も、章洋が持っている時刻表には一切載っていない。しかし、次の停車駅が『晒し首』なのは紛れもない事実である。
そうするうちに、次の駅へ停車するために列車は速度を落とした。晒し首駅のホームに入ると、ゆっくり進みながら駅名標のあるところへ停車した。
「晒し首、晒し首です。なお、この列車はこの駅で15分間停車します」
自動音声が聞こえた瞬間、章洋は列車の扉に背を向けようとしている。心の中では、五寸釘駅のホームで自分の目で見たときの状況を心の中で何度も繰り返している。
その場から動かないと心に決めた章洋だったが、それとは裏腹に後方から無理やり引っ張られながら列車の外へ引きずり出そうとしている。
「何をするんだ! 早く放してくれ……」
章洋は後ろを振り向いたが、引っ張っている相手の姿形は全く見えなかった。気味が悪くなったので逃げ出したいところだが、章洋の願いなど全く伝わるはずがなかった。
こうして、強制的に列車から出された章洋は、駅名標を見て自分の置かれている現実を思い知ることになった。
「晒し首っていう駅名……。本当にあったんだ……」
章洋はぼう然と立ち尽くしているが、それはまだ恐怖の始まりに過ぎない。ローカル線に不似合いな長いホームを歩いていると、青白い人魂が章洋の前を次々と飛び交っていた。
すると、章洋は長い棒の上に何かが人の首らしきものが乗っているのを見つけた。これに目を背けようとした章洋だったが、姿形が見えないものに無理やり引きずられることとなった。
「わわわっ! ど、どこへ連れて行くんだ……」
章洋は、あまりの恐怖にこのホームから列車へ早く戻りたい気持ちでいっぱいである。その間も、章洋の周りには不気味な空気がよどんでいる。
そのとき、章洋の耳に悲鳴らしき声が次々と入ってきた。それは、最後の言葉を遺すことなくこの世を去った人々の声である。
章洋は、恐る恐るホーム側のほうへ振り向いた。そこには、長い棒の上に乗っている大きな頭がい骨が横一列に並んでいる。
「う、うわああああああああっ!」
頭がい骨であるとはいえ、そこにあるのは獄門台で打ち首になった人たちであるのは間違いないようである。だが、章洋の恐怖はこれで終わったわけではない。
章洋の耳に入ってきたのは、無念にも命を落とした人たちの不気味な叫び声である。
「わしらは何もしてないのに……」
「なぜ首を斬られなければならないんだ……」
「絶対に呪ってやる……。呪ってやる……」
頭がい骨から発する呪いの声に、章洋は列車のほうへ目をそらすと脇目を振らずに列車の中へ駆け乗った。つり革を持った章洋は、晒し首を想起するような頭がい骨の並べ方に身の毛がよだつ思いである。