第2話 ホームで見た五寸釘とわら人形
「これからどこへ行くのだろうか……」
章洋は不安を感じながらも、つり革を片手で持ちながら立っている。あれだけ空席があるのなら、座席に座ってもおかしくないはずである。
しかし、他の乗客は相変わらず無表情のままである。乗客の外見は、章洋と同様にごく普通の人間である。あえて言えば、年齢を重ねた顔つきをした中高年が多いように見える。
ここに限らず、ローカル線の沿線における高齢化率は高いものがある。
「たまたま無表情なだけなのか、それとも……」
章洋がそうつぶやいているとき、車内にチャイムが鳴って再び自動音声が流れてきた。
「次は、五寸釘、五寸釘です。お出口は左側です」
「えっ? 五寸釘って……」
五寸釘という駅は、当然ながら時刻表に載っていない駅である。時刻表にない駅の名前を出してどうするつもりなのか、章洋が困惑するのも無理はない。
そうするうちに、列車はブレーキをかけて速度を徐々に落としながら最初の停車駅に到着した。
「この列車はこの駅で8分間停車します」
単線を走るローカル線で停車時間が長い場合、大抵は行き違い設備のある駅で交換するのが普通である。しかし、この駅は片面ホームで行き違い設備などどこにもない。
それにもかかわらず、長時間停車するのはなぜなのか。章洋が自問自答していると、列車のドアが開いた。
ホームに漂う気味の悪い雰囲気に、章洋はそのまま車内に留まりたい気持ちになった。けれども、章洋は見えないものに引っ張られるようにホームへ降ろされることになった。
どす黒い雲に覆われた空は、これから訪れるであろう出来事をそのまま暗示するものである。ホームに降りてから少し歩くと、章洋にとって不気味で信じられない光景が広がっていた。
「う、うそでしょ……」
ホームに植えられている大きな木の幹には、数多くのわら人形が五寸釘で打ちつけられていた。章洋は、それを見ただけで顔を背けそうな気分になった。
そのとき、章洋の横を通ったある男の人が木の幹にわら人形を左手で押しつけた。男の人の顔は青白くてうつむいており、その周りには不気味なオーラに覆われている。
「今までの恨み……。こ、これで晴らしてやるぜ……」
男の人は恐ろしい顔つきを見せると、五寸釘を金づちでわら人形に何度も打ち込んでいる。その狂気は、章洋にも十分に伝わるほどの凄まじさである。
それでも、まだ1人だけなら気味の悪さを感じるだけなのでまだいいほうである。ところが、ホームには突如として別の男の人や女の人が突然姿を現してきた。
大きな木の周りを囲むように集まった人たちは、一斉に口を開けてはあの言葉を発し始めた。
「今までの恨み……。今までの恨み……。こ、これで晴らしてやるぜ……」
そして、わら人形を木の幹に押しつけると同時に五寸釘を打ちつけ始めた。金づちを打ちつける音に、恐怖におびえた章洋はその場から逃げ出すと、あわてた様子ですぐに列車の中へ飛び乗った。