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命脈の石  作者: 三条龍樹
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ポテトもご一緒にいかがですか?

 客が入って来たのを確認した途端、自然と顔が笑顔になった。

 楽しいわけではない。

 店主の教えの賜物である。

 表面の埃を拭っていた商品を棚に戻し、接客モードになった俺はカウンターの中に入って頭を下げた。


「いらっしゃいませ、本日は何をお探しですか?」


 尋ねながらも、客の様子をうかがった。

 客はどうやら腕の立つ冒険者のようだ。

 分厚い甲冑についた傷で、いかに激戦を潜り抜けてきたのかが分かる。


「へぇ、今日は坊主が店番か? いつもの婆さんはどうした?」

「はい、生憎店主は持病が悪化いたしまして」


 店の奥にある私室の方をチラリと見た俺に、男は腕組みをして頷いた。

 どうやら、店主と顔馴染みらしい。


「だから、今日は孫が店番か」

「いえ、孫ではなくただの店員です」

「ほう、子供なのに感心な奴だ」

「そんなことはありません。単に生活費を稼ぐ為ですから」


 俺の言葉を聞いて、男は大げさに両手を広げて見せた。

 洋画等で良く見る、オウマイガッってポーズだ。

 異世界とは言え、外人さんは流石に様になる。


「俺がお前位の時は、親の手伝いが精々だったぜ。よし、今日は坊主の為にも奮発するか」


 奮発するか、その言葉確かに聞いたぞ。

 客に見えない角度でニヤリと笑った俺は、差し出された傷薬を見て別の商品も差し出した。


「傷薬5個ですね。傷薬と一緒に化膿止めもいかかですか?」

「はは、中々商売上手だな。じゃあ、それもくれ」


 傷薬5個に化膿止め5個を一緒にして、冒険者の前に置いた。

 当然、別の商品も並べて見せた。


「はい、ありがとうございます。ついでに毒消しもお持ちになった方が良いと思いますが」

「あ、ああ。じゃあ、頼む」

 

 傷薬5個、化膿止め5個、その隣に毒消しも5個並べた。

 冒険者の顔を見ると、戸惑っているのが分かる。

 だが、奮発すると言ったからには、奮発してもらわなければ悪いではないか。


「良かったら、解熱剤も買いませんか?」

「おい、もういい加減にしてくれ!」

 

 堪りかねた冒険者が叫んだ。

 誰がこの程度で帰すものか。

 某ファーストフードのスマイル0円精神で、一つでも多くの商品を売りさばいてやる。




 俺がこんなにがめつい真似をしているのは理由がある。

 5日前プリムの家に世話になった時、記憶喪失の振りをしてプリムとプリムの親父さんを質問攻めにした。

 それによると冒険者になるのに資格は要らないが、年齢が14〜5歳からでなければなれないらしい。

 本当はこの世界の成人の16歳に達してからだったらしいが、14〜5歳の登録希望者が多く年齢制限を下げたのだと言う。

 

 体が子供に戻っている俺には、それでも高いハードルだ。

 この体がいくつなのかは、部屋に飾ってあった写真を思い浮かべると大体推察できる。

 どうやら、少年野球で活躍していた当時に戻っているらしい。

 巨大アリと戦った体のキレなどからもそうだろうと確信した。


 今の俺の年齢が小学3〜4年生くらいだとすると、大体10歳〜11歳といった所だ。

 いくらサバを呼んだ所で、冒険者登録は出来そうにない。

 ガックリと肩を落とす俺に、プリムが何かを思いついたように言った。


「そうだ! 君は学術都市にある学園に行けばいいよ!」

「学園? 何かを教える所なのか?」

「うん、戦技や魔法なんかを教えてくれる学園なんだよ。一旦入学しちゃえば、後は卒業するまで寮生活だから行く所がないならいいと思うよ」


 ほう、それはいいかもしれないな。

 何より、行く所がない自分には何かを学べてそこに住めるなんて、嘘みたいな好条件に思えた。

 プリムに学園がある場所を尋ねようとすると、先にプリムの親父さんのガイラムさんがプリムに尋ねた。


「おい、プリム。この子が本当にあの学園に入れると思うのか?」

「お父さん、大丈夫だよ! ヨシュア君は一人でギジュウを倒せる位強いんだから!」

「……そうか、ヨシュアはそんなに強いのか。それなら、入学出来るかもしれん。だが……」


 そこで言葉を切ると、ガイラムさんは腕組みをして黙りこんだ。 

 何だ?入学するのに、何か資格でもいるんだろうか?


「何ですか? 気になるから、言ってください。」


 俺が先を促すと、眉間にしわを寄せたまま唸り声で言った。


「ヨシュア、入学金は支払えるのか?」

「…………」

「…………」


 プリムと俺は、顔を見合せて黙りこんだ。

 入学金か、確かにそれだけの好条件なら必要だろう。

 聞いたところによると、それはこの世界でもかなりの高額だった。

 まぁ、頑張って地道に稼ぐしかないか。


「すまん、我が家にはそれだけの余分な財産などなくて……」

「ゴメンね、ヨシュア君」


 何故か2人は、すまなそうに俺に謝って来た。

 頭を下げる2人に、俺は慌てて言った。


「とんでもない! そんなことまで人に頼れませんよ! 俺は自力で入学金を稼ぎます」

「……ヨシュアは子供なのに偉いな。プリムも少しは見習って、親に心配をかけないように冒険者など辞めたらどうだ?」


 自分に矛先が向いたプリムは、俺の両手を握りしめて言った。


「どこかでお手伝いとか探してないか、明日から探してあげる! 頑張ろうね、ヨシュア君!」

「あ、ああ……」


 こうして、プリムと村の中を探した結果、薬屋のジェーンさんの店で店番を頼まれるようになった。

 店主のジェーンさんは高齢で、店番をするのが最近辛いらしい。

 村の規模はかなり大きいので、薬の需要は多いようだ。

 閑古鳥が鳴いているような店なら店番なんて必要ないだろうが、村の中で唯一の薬屋ということもあってジェーンさんの店は繁盛していた。

  

 店主のジェーンさんはかなりのケチで偏屈な人間だったが、俺とは非常に気があった。

 俺が某ファーストフード店のスマイル0円精神で、商品を積極的に売りさばくのを見て気に入ってくれたらしい。 

 ジェーンさんは俺の様子を見ていて、ある日こう言ってくれた。


「ヨシュア、そろそろここに住居を移してはどうだ?」

「ありがとうございます。プリムの家に、ずっと居続けるわけにもいかないんで助かります」

「……本当は、少し惜しいんじゃろ?」

「……まぁ、少し……。って、何言わせるんですか!」

「はっはっはっ、達観しているように見えるが、お前もまだまだ子供じゃな。では、待ってるぞ」


 かくして、目的と住居が出来た俺は、毎日がめつく商売に励んでいるのである。 

 スマイル0円で商品を一つでも売りさばき、一日でも早く学園に入学だ。

 

「毎度ありがとうございました!」

「……おかしい、傷薬だけ買うつもりが何でこんなに……」


 首を傾げながら薬屋を出た冒険者の持っている袋の中には、必要以上の薬が大量に収められていた。

 この世界での薬屋は、正直言って非常に儲かる。

 薬草は採取してきた物だし、包装なんて無きにしも非ずだ。

 これなら思ったより早く、学園に入学できるかもしれないな。 

 さて、まずは商売商売。

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