魔王城にて
勇者は現代日本から異世界に転移して、冒険を重ね、仲間を増やし、やっと山奥の魔王城にたどり着いた。
「ここまで長かったな」
雲は厚く、空気はどんよりしている。魔王城の重厚な扉の前で、勇者は、己の恐怖心と闘いつつ、今までの冒険や出会った仲間達を思い出し、決意を新たにした。仲間も一緒なら大丈夫だろう。
「俺は勇者だ!魔王、お前を倒すためにここに来た」
扉の向こうに聞こえるように大きな声で言い放った。そして扉を開ける。
扉の向こうは薄暗いが何者かの気配がする。勇者達は気を引き締める。
中から声が聞こえて来た。
「あらあら、遠路はるばる、こんな山奥へようこそいらっしゃいました」
ご高齢のご婦人が現れた。
「何者だ?」
勇者が問う。
「名乗るほどのものではありませんよ、さぁさ、疲れたでしょう?お上がりなさい」
明らかに無防備なお年寄りに呆気に取られた勇者達は罠かもしれない、と思いつつ、言われた通り客間に通された。
「クッキーは召し上がる?紅茶は何処だったかしら。ミルクは入れる?ちょっと、爺さん、わたしがクッキー出したんだから、豆大福はいらないでしょう」
「そうだったかのぅ」
……なんだほのぼのしてる。まだ罠かもしれない。
「これ、マオ、勇者さんがみえてるわよ」
ご婦人が奥に向かって叫んでいる。
ド タ ド タ
奥から音が聞こえてくる。
「ちょっと待ってー。おばあちゃん、私が先にでるって言ったでしょ!」
中学生くらいの女の子が現れる。
「は?」
もしかして。
「待たせたな。我は魔王である」
彼女が魔王だったようだ。
「あらーちょっと、貴方、マオがデビューしたわよ。立派になったわね」
後ろで女性がハンカチを持って隣の男性と涙ぐんでいる。
「ちょっと、静かにしててよ!」
マオと呼ばれた子は顔を真っ赤にしてる。
「勇者さん、今晩は夕食も食べて行くでしょ?孫が頑張って作ったのよ」
「んもー、そういうこと言わないで!!」
勇者達は口を挟む間もなかった。