1 white angel ~意味~
「……何だったんだ?あの子。」
商店街をぬけ、門をくぐり、王国をあとにする。
この青年の名は、アル=グレナードという。
王国の領地から少し離れた、村に彼の家はあった。
橋を渡り、森をくぐりぬけ、そうして彼は村に着いた。
彼の家は、確かにこの村にある。が、
「……なんだい、帰ってきたのかい。よくもまあ、のこのこと。」
アルはあまり村民に好かれてはいなかった。
そのアルがそれでもこの村にいれたのは、アルの家の持ち主が迎え入れてくれたからであった。
ガチャ、と半開きのドアを開け、自分の家に入る。
「お?おかえり。今日は遅かったじゃん?」
「……ただいま。まあ…色々と、ね。スイは?」
「アルの部屋にいるんじゃないか?」
この男勝りな口調の持ち主は、アルと同じくらいの身長に少し赤みがかった黒髪の毛を一つに束ね、年齢はアルより少し高いものの、その容姿は、そうとは思えないくらいの、美貌の持ち主だった。この人がアルの住む家の持ち主だった。名はセレナ=フレインという。
「……そいえばアル、買ってきてくれたか?」
「ああ、釘か?一応。」
「えらいぞアル!後で頭撫でてやる!」
「いらないから。ほら釘。」
「ついでにドア、修理を頼む!」
…まあ、セレナにやらせたら悪化しそうだしな。しょうがない。
「セレナはなにを、って…。」
セレナは自分の横を通り過ぎ、外に出た瞬間。
その背中から、茶色の翼が姿を現す。
数多の羽を舞い上がらせて。
例えるなら気高き鷹の持つ、そんな翼。
唐突のことであったので、セレナが翼を持っていることを把握しているアルでさえ、見惚れた。そして、アルの瞳が一瞬、切なげに輝く。
「……って、見られたらどうするんだ!」
「ん?平気だよ。この家はほかの家とは距離があるし、それに、他の奴らは気味悪がってここまで来ないだろ?」
「そらそうだけど…。翼、磨きにいくのか?」
「まあね。スイをよろしく!」
「もう一人でも大丈夫だと思うんだけど。…まあ、わかった。」
「そんじゃ!」
セレナは足に力をこめ、勢いよく、飛んだ。
自分はその風圧に、体がよろめく。
そのまま、姿は見えなくなった。
翼は、誰もが持てる訳ではなく、選ばれた者だけが、授かることのできるものだった。
昔、翼を持つものは異形な「敵」との戦争に駆り出された。
翼を持つものは圧倒的に、一般的な人よりも身体能力がはるかに高かったからだ。
「敵」との戦争は今から、約500万年前に始まり、約100万年前に集結した。だから今、翼を持つものは人と変わらない暮らしをしているし、その数もわからなかった。そのうちの一人がセレナだった。
「…わざわざ「浄翼」なんてする必要あるのか?」
「浄翼」戦争のあった頃は、それを自身の持つ能力の向上、回復のために行われ、世界各地に隠されし、泉で行う。戦の前などによくされていた。
翼を使う機会のない、セレナには不要なことだった。
思えば、セレナは感じていたのかもしれない、地面奥深くで、力をためていた「敵」の再来に。