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土産物売りの少年 第一話 イスラ  作者: 海帆 走 かいほ かける
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イースター島で土産物を売る10歳の少年イスラ。 小さな弟や妹。友だちのマリーア。 日々の生活の中から小さな発見を積み重ねて成長していくイスラとあなたもお友達になってください

イスラはいつものように、みんなに挨拶すると、板の上に木彫りのモアイ像を並べた。

彼の両親が彫ったものだ。

イスラはこの島、イースター島の土産物売りだ。


ボクはイスラ。10歳。イスラは「島」って言う意味だ。この名前が結構気に入ってる。

家族は父さんと母さん。それに弟が2人、妹も2人。5人兄弟の長男だ。


学校には時々行く。

学校に行かない日はここで父さんや母さんが作った木彫りのモアイを並べて売る。

もうすぐ1年になる。もうベテランだ。


父さんや母さんが売るよりも、ボクが売る方がよく売れる。

だからボクが売るんだ。


マルコじいさんの話だと、今日島に来るのは「アメリカーノ (アメリカ人)」と「ハポネス (日本人)」らしい。


アメリカーノなら「Hello、Hello、ミスター」と言ってから、ニッコリと笑えばいいんだ。「dadbod ダドボッ」と言うとよく笑ってくれて、よく売れる。最近流行ってるギャグらしい。だいたい五人いれば40ドル。うまくすれば80ドルになるかもしれない。


ハポネスは「バイガエシー Bai ga e si」と言うと、喜んでたくさん買ってくれる。父さんが子供の頃は「イートモ Ii tomo」だったらしい。ハポネスはアメリカーノの3倍は買ってくれるだろう。だからハポネスは好きだ。


顔は似てるけど「チーノ (中国人)」はダメだ。うるさいばかりで、買ってくれない。いつも値切るだけで結局買わないんだ。

だからチーノは苦手だ。


マリーアが来た。一つ年下。

肩まであるふんわりとした黒い髪。

いつも笑っている大きな黒い目。

マリーアはみんなの人気者だ。


マリーアは口がきけない。

小さい頃にかかった病気のせいだ。

みんなはかわいいマリーアのためにいい場所を譲ってあげる。

だからマリーアの品物はよく売れる。

みんなそれが嬉しいんだ。


駐車場に小さなバスが着いた。

降りてきた人たちの先頭でシンゴが手を振ってる。今日最初にやってきたのはハポネスのグループだ。


シンゴはとてもいいヤツだ。

ボクたちにいつも丁寧に話す。バカにしない。約束を守る。

だからみんなシンゴが好きだ。


「やあ、イスラ! 元気にしてたかい?」

「やあ、マリーア、今日もかわいいね! 」

「マルコじいさん、お元気そうで何よりです」

「フリーオさん、セバスチャンさん、カルメンおばさん、皆さんお元気そうで何よりです」


シンゴはいつもみんなを笑顔にする。


「今日のお客さんは明るい人たちです。楽しく笑って売れば、たくさん買ってくれさると思いますよ。よろしくお願いしますね!」


「皆さーん! このマーケットの人たちは、良い人ばかりです。嘘をついたり、騙したりしません。売っているものも彼らが自分たちで作ったり、準備したものです。私が保証しますので、安心してお買い物をお楽しみください」


シンゴがボクたちに向かって大げさにおじぎをした。ボクたちはそれを見て声を上げて笑った。

20人のハポネスはニコニコとボクたちに近付いてきた。

さあ、商売、商売!


最初に来たのは大っきなカメラのおばさんだ。

ハポネスはカメラ好きだ。自分の目で見るよりカメラを通して見ている時間の方が長いんじゃないかと思うくらい写真好き。


こういうカメラ好きが来た時のやり方もみんなで相談してるんだ。

身振り手振りで、撮ってもいいけどその代わり買ってねと伝える。そしてニッコリ笑う。

それが大体一番売れるコツだ。


「こんにちは、おばさん! 木彫りのモアイはいかが?ボクの両親が作ったんだ」

「ボク! 写真を撮らせてくれないかしら?」


きた、きた。いつものパターンだ。

「いいよ、おばさん。そのかわり上手く撮れたら買ってね」

通じたみたいだ。


1枚目は腰に手を当ててポーズをとった。

2枚目は買ってねと品物に手を広げて笑った。


おばさん、カメラを見て笑ってる。OKだって。喜んでる。やった!

木彫りのモアイも4つ買ってくれた。

よかった、よかった。


隣のフリーオさんもちょっとだけ値引きして、モアイのTシャツをだいぶ売った。緑と黄色が売れたみたい。

フリーオさんのTシャツは明るい色で、元気が出るからよく売れる。

ハポネスは優しいから少し値引きすると買ってくれる。いい人たちだ。


アンテイクーチョも人だかりだ。

「アンテイクーチョはいかが〜〜! 新鮮な焼きたての牛のハツだ。ジューシーでおいしいよ〜! ビールもあるからそこに座って食べて行っておくれ〜」


「お〜い! これメチャうまいぜ〜。こりゃハツの塩焼きだよ。ビールにサイコーだぞ〜。ははは。みんなの分奢るぜ。お父さん、全部で5本頼むよ」

あのおじさん、大きな声で友達を呼んでる。気に入ったんだな。セバスチャンさん、たくさん売れそうだな〜! よかった、よかった。


「え? なにこれ。今ここで絞るの? あら、オイシイわ! あなたも飲んでみなさいよ。びっくりよ!」


あのおばさんたちもみんなで買ってる。

今日はパイナップル絞りでカルメンおばさんは忙しそうだ。やったね、おばさん!


マリーアの前にも何人か立っている。マリーアはいつもの様にニコニコ笑っている。


「『話せません』か。おい、どうせなら、俺この子から買うわ」

おじさんたちが何人もマリーアから買っていく。売れてるのはマリーアが自分で描いたモアイの絵と絵ハガキと古い切手。これが売れちゃうんだよね。スゴイよ。マリーアは。


ハポネスのおじさん、おばさんは、みんなとても楽しそうに買い物をし、たくさん飲んで、たくさん食べている。

嬉しそうにカメラを見せ合って笑っている。


シンゴが叫んでる。「皆さーん! そろそろ集合時間です。バスにお戻りください」


「それじゃ、みんな、また来るからね。その時はまた頼むよ!」

シンゴは笑って手を振りながら、ハポネスのおじさん、おぱさんをバスに連れていった。


今日はマリーアも絵が売れたみたいだし、ボクの木彫りも6つも売れた。50ドルの大きな木彫りも売れたんだ。全部で200ドルだ! やったね! 母さんたちも喜ぶぞ!


お客さんもいなくなって、そろそろお昼かなという頃に、弟シェロ(空)と妹マール(海)がやって来た。シェロは5歳。マールはまだ3歳だ。


ボクの家族はとても仲がいいんだ。

あまり金持ちじゃないけれど、みんないつも笑ってる。兄弟喧嘩もしない。


「イスラにいちゃん。売れてる?」

「イスラちいちゃん!おぺんと!」

いつもの様に手をつないで、二人でお弁当を持ってきてくれた。


「やあ、シェロ、マール。よく来たね。いつもありがとうね。助かるよ。まずはちゃんとみんなに挨拶しておいで」


二人はいつもの様にみんなに挨拶を始めた。

仲良く手をつないで、順々にみんなの前でこんにちはと頭を下げる二人。


「お〜、よう来たのう。キチンと挨拶が出来て、二人ともエライぞ〜」

みんな自分の子供のように温かい言葉で迎えてくれる。

「いつもイスラにお弁当持って来てあげてエライな。お兄ちゃん、喜んでるだろ?」

きっとみんなに褒められるから、明日も来ようと思うんだ。


みんなぼくたちにホントにやさしいんだ。いつもニコニコ接してくれる。ボクたちはとても恵まれてると思う。


「じゃあお昼にするから、マリーアを呼んできてくれるかな」

マリーアは弟たちに任せて、二人が持って来てくれた包みから中身を取り出す。

大きなパンが一つ。

そして母さんの作るペブレ。

トマトと玉ねぎの辛いソースだ。

これをつけて食べるともっとおいしいんだ。


ナイフでパンを4つに切り分ける。

いつもの様に、マリーアも一緒に4人でお昼ご飯だ。

まずは神さまにお祈りをしてから、いただきます!


弟妹二人は元気にニッコリと笑って食べ始めた。

マリーアはイスラにニッコリして、少し後から手を伸ばす。


セバスチャンさんが肉を一串。

カルメンおばさんは野菜がゴロゴロ入ったスープのカルボナーダを差し入れてくれた。

セバスチャンさん、カルメンおばさん、いつも本当に有難うございます!


みんなで食べるご飯はやっぱり楽しいし、会話もはずむ。


「午前中はとてもよく売れたよ。今日は天気もよいし、この後アメリカーノが来るらしいからきっともっと売れるぞ〜」



お昼が終わって、次のお客さんが来るまでは、みんなで一休み。いろいろなおしゃべりをする時間だ。

何が売れたか、どうすれば売れるか、こんなお客がいたとか、そんな時はどうすればいいとか、他にもいろんなことを話し合うんだ。


商売は、売れる時もあれば、売れない時もある。それでいいのさって、父さんがいつも言ってるよ。よい時も悪い時もある。それが人生だって。


結局午後、アメリカーノは来ずに、どこかの国のお客さんが数人がパラパラ来ただけで終わった。

夕方、みんなで一緒に店じまいだ。


ボクの店じまいはカンタン。木彫りの人形を優しく布に包んでしまうだけ。

最後にみんなに挨拶して、今日の仕事は終わり!

マリーアを送って一緒に帰る。


ボクらの島は海の真ん中にある。

周りに島は一つも無い。周りは全部海。

だから空がとても広い。


その広い空が、赤とオレンジと黄色と紫で上まで燃えあがっている。

倒れてきそうな大きな夕焼けだ。


静かに倒れ掛かってきそうな夕焼けを仰ぎ見ながら、マリーアと一緒に歩く。


マリーアも静かに空を見上げながら、気持ちよさそうに微笑みながら歩く。


「マリーアは絵描きになりたいんだろう?絵を書いている時は楽しいかい?」


マリーアはうんうんと頷いて両手で大きな円を書いた。


「と〜っても楽しいって意味?」

マリーアはニコニコと何度もウンウンとうなずいた。


「そうか。じゃぁ、マリーアは大きくなるまでずっと絵をかくんだね。スゴいや。マリーアはほんとにスゴい!」

マリーアは、はにかむ様に笑った。

ボクまで何だかとてもうれしかった。


マリーアの家の前まで来た。

「じゃあ、また明日ね。adiós!」


ボクは、何だかうれしくなって走った。


緑色の壁。赤い屋根。

何度も塗り直した小さな古い家。大事なボクの家だ。


「ただいま〜。今日はたくさん売れたよ! ハポネスが来て、たくさん買ってくれたんだ。6個で200ドルだよ! スゴいでしょ〜。嬉しいな〜」

父さんも母さんもとても喜んでくれた。


キッチンからは母さんの得意なカスエラの匂いがしてくる。

豚肉、ジャガイモ、たまねぎ、ニンジン、ピーマン、とうもろこしをグツグツ煮込んだスープだ。急にお腹がすいてきた。


ワイワイ言いながら、弟たちも部屋から出て来た。

「よーし、みんなでシャワー入るぞ〜」

「マールが一番なの〜!」マールはもう服もパンツも脱いでシャワールームに入っていった。シェロもあわてて服を脱いでる。みんなの笑いを誘う。


シャワーを浴びながらその日にあったこと、学校のこと、見かけた犬のこと、ジャブジャブしながら代わりばんこで話すんだ。


そしてやっとみんな一緒の晩ごはん。

神様に感謝してから食べる。

コレはわが家のルールだ。


今日はたくさん売れたとみんなに話したら、みんなとても喜んでくれた。

一番下のマールはパチパチと小さな手で拍手までしてくれた。ちょっと照れるけど嬉しいな。父さんにも喜んでもらえたし、たまにこういう日があってもいいな。


夜。

父さんと母さんにおやすみを言ってから、兄弟5人で一緒に寝る。ベットは3つしかないから二人ずつ寝るんだ。


「じゃあ今日最後のお話は、大きくなったら何になりたいかにしよう」

「お母さん!」とマール。

「僕はね、サッカー選手」シェロ

「私はお嫁さん」

「僕はお父さんみたいに素敵な人形を作るのがいいな」

「兄ちゃんの夢は、大人になっても今みたいにみんなが仲良しでいることだ」

みんなフフフと笑いをこらえて、お互いを見てる。

目がキラキラしてる。何だかいいね。


「じゃ、電気消すぞ〜」カチリ。


にわかに闇の世界が降りてきた。

みんな口々に おやすみ を言いあって、ベッドに丸くなった。

「ほ〜ら、マール、お姉ちゃんのことくすぐらな〜いの〜」ふざけるマールを静かに注意する。


寝返りの衣擦れの音がなくなりしばらくして、ようやく5人の静かな寝息が聞こえてきた。


痩せた茶色い犬が鼻を鳴らして家の前を通り過ぎていく。

驚いた様にヤモリが2匹、緑の壁をスルスルと登っていった。


明るい月が静かな緑色の小さな家を静かに照らしていた。



本作品はフィクションであり、小説として脚色されています。

正確な事実を描いたものではありません。

皆様にその虚構をお楽しみ頂ければ幸いです。

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