最終話
『主殿・・・。陽葵は隣村である露という村を目指しているようですが・・・。』
「・・・。」
『主殿・・・!!』
翠は秋貞のまごまごとする態度に憤りを感じ、叫んだ。
「すまない・・・翠。これからも陽葵を陰から見守ってやってくれ。今の俺にはそんなことしかできない。」
『・・・はい。かしこまりました。』
秋貞はこんな風にしていても翠の主だ。翠には断ることなんてできなかった。
* * *
「母様、着きましたよ。この村に空き家があるかどうか、村長さんに聞いてみるから、乳母と女房と一緒に待っててね。」
「わたくしも参ります。」
女房が陽葵についていこうとする。しかし、それを陽葵が制した。
「ううん。何があるかわからないから、ここに居て。母様もこの状況じゃ乳母だけだと大変だろうし。」
母の方を向き、ふわりとほほ笑んだ。その笑みには悲しさが見え隠れしていた。
「母様!あちらのお家が使われていない屋敷だそうです。」
陽葵がパタパタと足音を立て、帰ってきた。
「そう・・・。見つかったのね、よかったわ。」
「行きましょう。空き家だから、好きなように使用していいそうです。」
落ち着く屋敷を見つけた陽葵達はここに30年間住み続けることになる。
その間に母である佐和は亡くなった。享年57歳であった。この時代の人間としては長く生きたといっても過言ではないだろう。
陽葵の父、弘蔵も仏門に入り、神たちに見送られた。享年60歳。こちらも長生きしたといえるであろう。
陽葵と陽葵の父、弘蔵は二度と会うことなく別れを迎えた。
陽葵は自分の夢、女でも働ける世の中を目指す、というものを叶えることができず、亡くなった。
それは843年、神無月の出来事であった。
世を狂わせかけた安倍陽葵は23歳という短い命を落とした。
母よりも、父よりも先にこの世を去った。
最終話です。
エピローグが残っていますので、よろしく見てください!




