第2話
「ここらで別れだな。」
弘蔵が足を止め、陽葵と乳母たちのほうを向く。
現在、陽葵たちは都と隣村である露、というところの境にある分かれ道にいた。
「私は、ここから左に行ったところにある、寺へと行かねばならない。陽葵たちはまっすぐこの先にある橋を渡り、隣村まで歩くのだ。よいな?」
そういいながら、弘蔵は20年間は過ごせるであろう大量のお金を陽葵に手渡す。
袋に入っていたお金はずっしりと重かった。
陽葵達は再び歩き出した弘蔵を無言で見送った。
(きっと、また会えるよね?父様、お元気で・・・)
「母様、大丈夫ですか?行け・・・ますか?」
涙を流す母を支えながら陽葵は問う。
「陽葵・・・ごめんなさい・・・。行きましょう。」
そういい、橋を渡りだした。
陽葵は秋貞とあんな別れ方をしてしまったことが歯がゆく、心残りであったが、この橋に一歩踏み入れた瞬間、きっぱりと秋貞のことを忘れ、新しい自分になることを決意した。
(さようなら、秋貞様。京の都。そして、陰陽寮のみなさん・・・。もう二度と会うことはないでしょう。ありがとうございました。)
陽葵は涙を一滴落とし、歩を速めた。
この日、安倍一家はこっそりと都から姿を消した。
この日以降、都で安倍一家の姿を見たものはいない。
* * *
『主殿、陽葵の気配が都から消えましたが、良いのですか?このまま別れてしまって。』
式神の翠は神の力を使い、陽葵の気配を追っていた。
「そうか・・・。だが、あんなことがあったのに合わせる顔が・・・ない。」
『・・・・・・。』
翠はこの状況を何とかしようと頭を働かせはじめた。




